「あ、共感とかじゃなくて。」

見知らぬ誰かのことを想像する展覧会

SNSの「いいね!」や、おしゃべりの中での「わかる~~~」など、日常のコミュニケーションには「共感」があふれています。共感とは、自分以外の誰かの気持ちや経験などを理解する力のことです。相手の立場に立って考える優しさや思いやりは、この力から生まれるとも言われます。でも、簡単に共感されるとイライラしたり、共感を無理強いされると嫌な気持ちになることもあります。そんな時には「あ、共感とかじゃなくて。」とあえて共感を避けるのも、一つの方法ではないでしょうか。

この展覧会では、有川滋男山本麻紀子渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)武田力中島伽耶子の5人のアーティストの作品を紹介します。彼らは作品を通して、知らない人、目の前にいない人について考え、理解しようとしています。安易な共感に疑問を投げかけるものもあれば、時間をかけて深い共感にたどりつくものもあります。それを見る私たちも、「この人は何をしているんだろう?」「あの人は何を考えているんだろう?」と不思議に思うでしょう。謎解きのように答えが用意されているわけではありませんが、答えのない問いを考え続ける面白さがあります。共感しないことは相手を嫌うことではなく、新しい視点を手に入れて、そこから対話をするチャンスなのです。

家族や友人との人間関係や、自分のアイデンティティを確立する過程に悩むことも多い10代はもちろん、大人たちにも、すぐに結論を出さずに考え続ける面白さを体験してほしいと思います。

参加アーティスト

有川滋男(ありかわしげお)
部屋に入ると、それぞれの会社が業務内容を説明するブースが並んでいます。モニターの動画を見て考えてみましょう。この人は何をしているのか。何のための仕事なのか。この後何が起こるのか。

―映像作家。人間は見ているものに、意味を読み取ろうとする。そこであえて意味を分かりにくくして、「見る」ことの不思議さを問いかける。アムステルダム在住

  • 濃い色の作業着を着たショートヘアの若い女性が、ノギスを使ってラバーカップの厚みを確認しています。その背後では同じ作業着を着た男性が一人、デスクに向かって作業をしています。

    有川滋男《ゴールドタウン》2017年

  • 壁に囲まれた筒型の空間で、床に砂利が敷いてあり明るいため、屋外であることが分かります。画面の両脇には三脚のついた望遠鏡が置かれており、空を向いています。画面の真ん中では男性が逆立ちをしており、その人の服は空の模様になっています。

    有川滋男《ラージアイランド》2018年

山本麻紀子(やまもとまきこ)
巨人の落とし物である大きな歯を作ったり、その歯を抱えて眠って見た夢の絵を描いたりしています。植物や土に触れながら、生きのびること、待つことについて考え、巨人の世界を知ろうとしています。

どこかの場所について詳しく調査し、そこに住む人たちとのコミュニケーションを元に作品を作るアーティスト。落とし物を拾うのが得意。滋賀県在住

  • 古い学校の廊下のようなところに、タオルを首にかけ、キャップをかぶった半袖Tシャツの女性が、お尻を床につけて膝を立てて座っています。彼女が手をのばして撫でているのは、座っている彼女よりも大きい奥歯です。

    山本麻紀子《巨人の歯》2018年 撮影:内堀義之

  • まだ明るい時間帯の学校の校庭の砂の上で、キャンプ用のマットを敷いて小柄な女性が眠っています。彼女のかたわらには、日傘をつけた自転車と大きなリュックサックがあり、大きな奥歯も横倒しに寝ています。

    山本麻紀子《崇仁小学校で眠る》2020 年 撮影:片山達貴 写真提供:一般社団法人 HAPS
    「京都市 文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業 モデル事業」

渡辺篤(わたなべあつし)アイムヒア プロジェクト
新型コロナがはやって、みんなが外出や人に会うのを控えていた時、同じ月を見て、写真を撮るというプロジェクトを始めました。寂しさを感じている人、見えないつらさを抱えている人がいることを、いつも思い出せるように。

元ひきこもりで、当事者をケアする活動家でもある。アーティストとして、孤立している人の存在を多くの人に想像してもらおうとしている。神奈川県在住

  • コンクリート打ち放しの暗い空間の中に、大きな満月が浮かんでいます。クレーターまではっきりと見えています。その手前の月を覗き込むような位置に、三脚のついた望遠鏡が置かれています。

    渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)《月はまた昇る》2021 年 展示風景:「同じ月を見た日」R16 studio、撮影:井上桂佑

  • 白い展示室の壁に、一般的な住宅用の室内ドアの形をしたモルタル製の作品が立てかけてあります。ドアは一度破壊されたらしく、縦横無尽にひびが入っており、破片を金継ぎでつないであります。

    渡辺篤《修復のモニュメント「ドア」》 2016/2019年 
撮影:井上桂佑

武田力(たけだりき)
移動図書館のような車に、むかし誰かが使っていた小学校の教科書が並んでいます。自分と同じ教科書はありますか?さまざまな時代や地域の教科書と比べたり、らくがきから元の持ち主を想像したりしながら、社会や教育について思いをめぐらせます。

演出家、民俗芸能アーカイバー。参加者との相互作用で生まれる作品や、盆おどりのように誰かの暮らしで生まれた動きを新しい世界に渡す活動など。東京都/熊本県在住

  • 海の家にあるようなパラソルの下で、日本人男性が家庭用たこ焼き器をつかって、たこ焼きを作っています。少し距離をおいてその様子を見守っているのは、フィリピンのこども達です。

    武田力《たこを焼く》2017年 撮影:Samantha Lee ©CNN Philippines
    *本作品は今回展示されないため、参考図版となります

  • 公民館のような建物の前に人工芝が敷かれており、その上にキッチンカーのような小さなトラックが停まっています。その周囲にはアウトドア用の椅子やテーブルがあり、5人の人が熱心に何かを読んでいます。

    武田力《教科書カフェ》2022年HUBーIBARAKI ART PROJECT 2022での上演風景

中島伽耶子(なかしまかやこ)
空間を大きく斜めに横切る黄色い壁は、暗い部屋と明るい部屋を隔てています。壁の向こう側の様子は、音や光でうかがい知るしかありません。相手を知ることはできますか?対話のテーブルにつくことはできますか?

壁や境界線をモチーフにして、分かりあえなさについて考える。家全体を使うなど、見る人が身をおく空間全体を作品にする。秋田県在住

  • パステルなどで粗く描かれたドローイングです。石の壁を斜めに突き抜けて、黄色い壁紙の壁が立っています。黄色い壁紙には、赤や青で模様が補われています。石の壁には開口部が二つあり、その向こうが暗く塗られています。

    中島伽耶子 新作のためのドローイング 2023年

  • 壁も床も天井も白い、小さなギャラリーのような空間の真ん中に、テーブルがあります。そのテーブルは足が4本のうち2本しかなく、天井からのロープで支えられています。壁の木材の一部がはがされ、その奥に別の壁紙が見えています。

    中島伽耶子《例えば(天気の話をするように痛みについて話せれば)》2022年 岩瀬海、櫻井莉菜との共作 撮影:越中谷写真館
    *本作品は今回展示されないため、参考図版となります

関連プログラム


★哲学対話
展覧会で作品を見ながら思いついた「?」について、10人ほどのグループで考えたり話し合ったりする哲学対話を行います。じょうずに話せなくも大丈夫。答えのない問いを楽しむ時間です。

★ドラァグクイーン・ストーリー・アワー
3歳から8歳のこどもに向けて、ドラァグクイーンが絵本の読み聞かせを行います。(ドラァグクイーンっていうのは、派手なメイクとキラキラのドレスでパフォーマンスをする人のこと)他の人たちと違っていても、ありのままの自分、自分らしい自分でいていいんだよ、と元気づけてくれます。

★アーティストと一緒に作品を見るツアー(不登校編)
学校に行かないことにした人たちのために、参加アーティストの渡辺篤さんが展覧会を案内するツアーを、休館日に行います。
協力:NPO法人全国不登校新聞社

★アーティストと一緒に作品を見るツアー(ひきこもり編)
ひきこもり・生きづらさの当事者を対象として、参加アーティストの渡辺篤さんが展覧会を案内するツアーを、休館日に行います。
協力:一般社団法人ひきこもりUX会議

※ 詳細やその他のイベントについては、当ウェブサイトにて随時お知らせいたします。
※ 本内容は都合により変更になる場合がございます。

基本情報

会期

2023年7月15日(土)~11月5日(日)

休館日

月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10

開館時間

10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)

会場

東京都現代美術館 企画展示室 B2F

観覧料

一般1,300 円 / 大学生・専門学校生・65 歳以上900円 / 中高生500円 /小学生以下無料
※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。

主催

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

助成

駐日オランダ王国大使館

協力

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