2023年08月09日(水)

「あ、共感とかじゃなくて。」展示室に社歌が響きます。

有川滋男《ディープリバー》2023年

2023年717日、「あ、共感とかじゃなくて。」展関連プログラムとして、有川滋男さんの新作映像を鑑賞して作詞する「《ディープリバー》社歌作詞ワークショップ」を開催しました。

本展で有川さんが展示している5点は、通称「架空の仕事シリーズ」(かっこいい正式名称は「(Re)interpretation」)。何かを仕事をしているらしい人物が登場する映像作品ですが、それがどんな仕事なのか、果たして本当に仕事なのかは、見れば見るほど分かりません。有川さんはこれまでも、会社の募集要項やポスターを作るワークショップなどを行ってきましたが、今回はなんと、社歌を作詞するワークショップです。作曲は、ミュージシャンの西井夕紀子さんです。

ワークショップではまず、展示室内で撮影して数日前にできあがったばかりの新作《ディープリバー》を、じっくり鑑賞しました。「映像を観ながら気になったことをメモしてください。」という有川さんの呼びかけに、8人の参加者はそれぞれ付箋紙にペンを走らせます。

「南京錠」「滑車が上がったり下がったり」「封筒」「TOT434」など、気になったポイントを全員でシェアした後、今度はそれを元にどんな仕事なのかを考えます。

007のような情報機関で、暗殺するターゲットを記号で知らせている?地下に株のスペシャリストがいて、株価の変動をこっそり顧客に知らせている?毎朝のルーティンとして今日の運勢を世界に示している?彼女たちは巫女のような存在で、神様の言葉を世界に伝える役目?様々な解釈を、みなさん自信満々に披露してくれます。

「どこで撮影したんですか?」という参加者からの質問に、「美術館の展示室と、あとは近くの川沿いなどで撮影しました。このあたりは深川と呼ばれているエリアで、川が近いんです。」と、うっかり《ディープリバー》の作品タイトルの由来をバラしてしまう有川さん。そう、このシリーズの作品タイトルは、撮影地からとられています。この情報も、お仕事の解釈に影響を与えるのでしょうか?

その後いよいよ、西井さんが作曲した社歌のメロディーを聴きます。いかにも社歌というメロディー(現代美術ファンとしては、「明和電機社歌」を思い出すところ)ではなく、テクノポップ風のライトな曲調です。しかも、シンプルな旋律だけど、ちょっと歌うのが難しそう・・・。「ダークな仕事内容を想定していたんだけど、曲調が違うからどうしよう!」と戸惑う参加者も。でも西井さんがしれっと「私も《ディープリバー》を観て、そのイメージで作曲したんだけどな~」と言うと、みなさん「それぞれイメージすることは違うもんね~」と納得した様子でした。「メロディーの音にあわせた文字数で作詞をしてくださいね。ここは7文字・5文字をあてはめます」西井さんが何度もアコーディオンでメロディーを弾いてくれるのを聴きながら、文字数をあわせていきます。

さて、それぞれの歌詞ができあがったところで、全員分を集めます。みなさんの力作を見て、有川さんと西井さんも嬉しそうです。そして歌詞が書かれた紙をおもむろにシャッフル!1フレーズごとに紙の山からピックアップして並べていきます。この歌は8フレーズあり、参加者は8人なので、それぞれ自分が作った歌詞が1フレーズずつ入ることになります。このチャンスオペレーション(偶然性を利用して作曲すること)のような操作を3回繰り返し、できあがったのがこちらです。

自然環境についての仕事にも見えるし、いやいや世界の株価を操っている仕事かもしれない?宇宙からの信号をキャッチしているようでもあり、神様からのお導きなのかもしれない?世界を守る壮大な業務内容かと思いきや、「社長のご気分いかがでしょう」と顧客第一どっちやねん!という、不思議な社風が反映された社歌になりました。

この後、西井さんが用意してくださったプロ仕様のマイクを囲み、全員でレコーディングをしました。最後に有川さん本人が、どういう設定でこの作品を作ったのかを明かしてくれましたが、すでに自分の解釈を深掘りしていて社歌にまで仕上げた参加者のみなさんは、最後まで余裕で大爆笑していました。作家にとっての「正解」を当てるのではなく、自分にとっての納得解をみんなで作り上げたぞという満足感が感じられました。参加者のみなさん、西井さん、有川さん、ありがとうございました。

このワークショップでみなさんに作っていただいた社歌は、会期中展示室で流します。今のところ、午後1時に《ディープリバー》の前で看視スタッフが流すことにしていますが、ご要望があればそれ以外の時間でも演奏しますので、お声がけください。

(担当学芸員 八巻)

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