「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」関連プログラム「布の絵本」と「絵本で遊ぶ日」レポート
エリック・カールはかつて、このような文章を残しています。
「発達障害や学習障害のあるこどもに教えている多くの先生たちから、私の本が授業で役立っているというお手紙をいただきます。私は教育の専門家ではありませんが、あらゆるタイプの学習者に私の本が届いていることを、大変嬉しく思っています。」
https://eric-carle.com/my-books-and-all-kinds-of-learners/
あらゆるタイプの学習者(All kinds of learners)という言葉を使っているところに、エリック・カールがこどもに向ける敬意をこめた眼差しを感じます。ゆっくりでも、遠回りでも、他の人と違っても、自分の方法で学んでいく存在として、こどもを捉えていたのだと思います。彼自身は学校嫌いで勉強嫌いでしたし、パートナーのボビーは特別支援教育の専門家でした。
そして彼は、見えない/見えにくい子、聞こえない/聞こえにくい子の読書についても、関心を持っていました。『はらぺこあおむし』は、点字がついた触るバージョンもありますし、アメリカ手話(ASL)の初歩を教えるための教材にあおむしが登場する関連書籍もあります。本展でも、あらゆるタイプの学習者の読書を考えるためのプログラムを実施しました。
【布の絵本】
最初の展示室の一番奥の展示ケースの中には、布でできた絵本があります。これは布の絵本作りをしている日本の女性たちが作り、エリック・カール絵本美術館に寄贈したものです。
布の絵本というのは、日本で1970年代から作られているバリアフリー絵本のひとつです。様々な手触りの布やフェルトでできており、その手触りを楽しんだり、紐やマジックテープ、ボタンなどによってパーツを外したりひっぱったり、遊ぶことができます。市販されている赤ちゃん用布絵本や知育絵本とは異なり、視覚に障害のある子や、動きが不自由で紙の本をめくることが難しい子、知的な障害があり物語の理解が難しい子などのために、市民活動として手作りされてきました。展示されているのは、立川市のぐる~ぷ・あゆみという制作グループが、出版社およびエリック・カールの許可のもとに作ったものです。
今回、展示させていただくにあたり、ぐる~ぷ・あゆみに連絡をとったところ、「布の絵本は触って楽しむものだから、展示品とは別に、触るための布の絵本をお貸出しします」とありがたいお申し出をいただき、同グループと長崎市のゆりの会が制作したものの2冊を、お借りすることになりました。 盲学校のスクールプログラムや、見えない方から依頼されての鑑賞サポート、そして「布の絵本でふれる『はらぺこあおむし』」というプログラムで活用させていただいています。
「布の絵本でふれる『はらぺこあおむし』」は、読書コーナーの一角で、スタッフとお話ししながら絵本を触っていただくというもので、見える方も含めて、読書アクセシビリティについて一緒に考える機会としています。1回にお二人ずつ、2冊を触り比べながらゆっくり楽しんでいただいているので、少し待ち時間が発生することもありますが、視覚障害のある方や、布の絵本に関心をお持ちの方を中心に、多くの方に体験していただいています。ぜひこの機会に、バリアフリー絵本や読書アクセシビリティについて知っていただきたいと思います。
【追加開催】布の絵本でふれる『はらぺこあおむし』
2026年7月7日(火)、 7月17日(金) 各日14:00~17:00
実際に布の絵本を触っている様子
【手話のあるプログラム】
絵本の読み聞かせや絵本の内容に関連した工作など、こども向けのプログラムは、様々な美術館・図書館・書店などで行われています。しかしそのほとんどが聞こえる人向けにデザインされているため、聞こえない/聞こえにくい子は、参加できなかったり、同じ体験ができなかったりします。今回は、聞こえない/聞こえにくい子とその家族を対象としたプログラム「絵本で遊ぶ日」を行うことにしました。
聞こえない/聞こえにくい人と言えば、手話で話す人を思い浮かべるかもしれません。実際には、聞こえの状態や聞こえにくくなった年齢、環境などによって、手話を第一言語とする人、音声言語をメインにして文字で補う人、補聴システムで情報を得る人など、様々なコミュニケーション方法があります。
聞こえない/聞こえにくい子の場合は、手話も音声もまだ習得段階であり、また親(聞こえる人であることが多い)やきょうだいも家庭内のコミュニケーションのために手話を習得中であったりします。そのため、手話だけではなく、手話・音声・文字支援・視覚支援など、様々な方法を使ってコミュニケーションをとる必要があるのです。
今回は、医療・教育・福祉を横断して聴覚障害児の育ちによりそう「ほっとりんく」との協働により、プログラムを企画しました。プログラムのファシリテーションを行うのは、元ろう学校教諭で手話通訳士、言語聴覚士として活躍しているほとりさん(聞こえる人)と、保育士としてお仕事をしているゆりさん(聞こえない人)のお二人です。
工作の作り方を説明しているところ
ワークシートを完成させると、ごほうびシールがもらえます
ワークシートをつかった展示室での鑑賞と、絵本の読み聞かせ、そしてエリック・カールの作品にちなんだ工作という三本柱のプログラムで、読み聞かせと工作を読書コーナーで行うため、1回につき4家族という少人数での開催となりました。3歳から7歳の聞こえない/聞こえにくい子と、きょうだいを含めた家族が参加してくれました。
事前に活動内容がわかるように「しおり」を参加者に送ったり、ホワイトボードを活用したりなど、視覚をより活用する工夫により、安心して参加できたようです。
何より、手話でお話しできる人がいる場ということが、こどもたちの笑顔を引き出していました。こうしたプログラムを、美術館としても継続していけたらと思います。
ワークシートにある絵を探しながら、手話で会話する親子
(エリック・カール展担当学芸員 八巻香澄)
