「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」関連プログラム「Dialogue of Reading」レポート
「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」は、カールの絵本を今まさに楽しんでいる小さいお子様とそのご家族も、たくさんご来場をいただいております。また小さい頃の思い出や新しい発見に目をキラキラさせている大人も、たくさんいらっしゃいます。この様子を見ていると、「絵本は大人のためのものでもある」という思いを新たにします。
大人が絵本に向き合う時、こどもの頃の自分に再会したり、こどもの時には気付かなかったことを発見したり、家族の思い出が重なっていたりと、年齢を重ねた分だけ、楽しみ方の厚みが増していくのです。そうした素敵な絵本との時間を味わっている大人同士で対話をする会「Dialogue of Reading —大人のための対話会:絵本とともに―」というプログラムを、5月9日(土)・10日(日)の二日間に全4回実施しました。
ファシリテーターは、本に関する対話の会を数多く主催しているbook pick orchestraの川上洋平さんにお願いしました。川上さんには本展読書コーナーの絵本の選書もお願いしています。
話しやすい雰囲気を保つため参加人数を限定し、応募多数のため抽選で各回8名の方にご参加いただくことにしました。
2時間の対話の会では、参加者がそれぞれ、思い入れのある絵本を一冊持ちより、その本との出会いなどを語ります。小さい頃から絵本が大好きで、今も家に絵本がたくさんある!という絵本ファンもいれば、絵本に興味がなかったけれど、たまたま出会った一冊だけを大切にしているという人もいます。どの方のお話からも、お人柄や絵本を通じてご自身を見つめるプロセスが伝わってきました。また、他の人の話を聴くことで、思い入れのある何度も読んだ絵本に新たな視点からの発見が生まれるのも驚きの体験でした。
具体的にどのようなお話が出たのか、5月10日(日)午前の回を見守った当館インターンが紹介します。展覧会を観たあと、身近な方と絵本について語り合うためのヒントにしていただければ幸いです。 (担当学芸員 八巻香澄)
ここからはインターン生の赤城がお伝えします。
大人になってから「絵本」について考えたことはありますか。
絵本を通して人生を振り返ってみる、大人だからこそそんな体験を味わうことができるのかもしれません。
対話会の様子。奥の眼鏡の男性がファシリテーターの川上さん
対話会のファシリテーターは、本展読書コーナーの絵本をセレクトした選書家の川上洋平さん。参加者の皆さんは思い入れのある絵本を1冊持ち寄り、絵本を道しるべに対話を深めていきます。
対話会の初め、ファシリテーターの川上さんから「本を通した対話に参加したことのある人もない人も、リラックスして参加してほしい」と挨拶がありました。
プログラムには幅広い世代の参加者が思い思いの絵本を持って集まっています。少し緊張した面持ちの参加者もいる中、簡単な自己紹介からプログラムがスタート。あおむしがいろいろな食べ物を食べながら成長する様子を描いた『はらぺこあおむし』になぞらえ、自己紹介では一人ひとりが「好きな食べ物」を紹介し、お互いを知る時間が和やかに進行していきます。
続いて、参加者それぞれが持ち寄った絵本を机に並べます。
机の上に絵本を置いてながめる
みんなで表紙をながめながら一気に絵本と記憶の世界に入り、ここから本格的に対話がスタート。
対話会では、一人ひとりに自分の話をするターンがめぐってきます。
1周目のテーマは「絵本との出会いについて」。
絵本を手に取ったきっかけや、人生のどんなタイミングでその絵本と出会ったのか。持ち寄った一冊だけでなく、絵本という存在とどのように関わってきたかということについて話していきます。
親の影響で幼少期から絵本に囲まれて育ってきたという方や、大人になって働き始めるまで絵本の魅力が全然わからなかったという方など、絵本にまつわるバックグラウンドも様々。共感して深くうなずいたり、驚いて「それってどういうこと?」と尋ねたり。
一人ひとりの「絵本との出会い」のエピソードに耳を傾けながら、参加者同士のコミュニケーションも活発になっていきます。
自分のターンで話を終えたら、「他の参加者の絵本の中で気になった絵本はありますか?」という川上さんの問いかけに答えて次の参加者へと話のバトンを渡します。
2周目のテーマは「絵本について教えてください」。
絵本をめくってあらすじを紹介しながら、印象に残っている内容や絵本と結びついた記憶について話します。
参加者が一冊の絵本に注目をしている
笑顔があふれる場面も多い
イタリアと日本にルーツのあるエレナさんは『Misti』というイタリア語の絵本を紹介。
絵本を通した家族の関わり方が国によって様々であると感じたエピソードが語られます。
絵本を読んだ後には必ず家族と対話の時間があり、自分の気持ちを他者と共有する経験を自然と積んできたと振り返っていました。
他の参加者も自分と絵本、そして家族とのこれまでの関わり方を振り返り、一人ひとりの背景や考え方が少しずつ見えてきます。
大学で美術を学ぶ、Yさんは絵本の表現へ注目する視点を共有。
「楽しい!大好き!という気持ちをストレートに表現していいのだと気づいた」と、「何となく好き」という気持ちを持ち続けられる素晴らしさに気づくきっかけとなった絵本『おふろだいすき』(松岡享子 作・林明子 絵、福音館書店、1982年)を紹介してくれました。
絵の描写に注目する参加者の方々
対話がすすみ、手ぶりを交えて質問をする様子
こどもの頃から絵本が好きだったゆうきさんからは、大人になった今でもどうしても手放せない大切な一冊についての思い出が語られ、子どもの頃の「好き」という気持ちを大切に持ち続けていることが伝わってきます。
一方、幼少期は絵本より乗り物に夢中になっていたというみどりさんは教員として働きはじめ、小学生が絵本に夢中になる姿を見て次第に絵本の魅力に気づいたそう。
冬ごもりの時、たいくつした仲間にお話をきかせる野ねずみの『フレデリック』(レオ・レオニ 作・谷川俊太郎 訳、好学社、1969年)の紹介を通じて、今のこどもたちに受け取ってほしいメッセージや、読むたびに気づきがあるという話に共感する声も多く上がりました。
年老いたゾウとそれを見守るネズミの物語『だいじょうぶだよ、ゾウさん』(ローレンス・ブルギニョン 作・ヴァレリー・ダール 絵・柳田邦男 訳、文溪堂、2005年)を紹介したようこさんは、「この絵本を大人になったから今だから理解し、味わうことができるようになった」と語ります。絵本は生死観や人生について考えるきっかけにもなるのだと対話の中で気づきを得る場面もありました。
大人対象の読み聞かせを数多くやっているドンハマ★さんが読み聞かせを披露してくれる場面も!ワクワクする語り口調に皆さん聞き入っていました。
参加者の皆さんが椅子から立ち上がって絵本に見入る様子
ドンハマ★さんが読み聞かせをする様子
対話会の終盤、「誰しもが持っている『こどもごころ』は大人になると隠れてしまう。絵本にはそれをよび起こして私たちをワクワクさせてくれる力があるのかもしれないですね。」と川上さん。対話会を通して人生を振り返り、幼い頃のワクワクを思い出した方も多かったかもしれません。
自分のエピソードも、他の参加者への興味も尽きることはなく、プログラムの終わりの時間を過ぎても対話を続ける参加者の様子も見られました。
参加者一人ひとりが自分自身や他者との対話を通して、絵本や人生について様々な感情を抱き、絵本の魅力に改めて気づく機会になったのではないでしょうか。
(MOT2026年度インターン生 赤城のい)
