2022年12月13日(火)

第61回MOT美術館講座「《モナ・リザ》スプレー事件をめぐって―ウーマン・リブと障害者運動」

MOT美術館講座

今回のMOT美術館講座は、企画展「MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」に関連したプログラムとして実施しました(20221010(月・祝) 14:0015:30)。

MOTアニュアル2022」に出品されていた工藤春香《あなたの見ている風景を私は見ることはできない。私の見ている風景をあなたは見ることはできない。》で取り上げられている米津知子氏について、ウーマン・リブや障害者運動の歴史を辿りながら彼女の人生に迫った『凜として灯る』の著者で、障害者文化論を専門とする荒井裕樹氏にご登壇いただきました。米津氏のモナリザ・スプレー事件に至った経緯を紐解きながら、彼女が向き合い続けた交差性と社会との関係について考える機会になったのではないでしょうか。

冒頭、本題に入る前に1970年代という時代背景や、優生保護法改悪阻止闘争にも簡単に触れ、前提を整えたうえでお話は始まりました。「美術館は開かれているのか?」という問いかけに始まり、世界の複雑さを複雑なまま描こうとした荒井さんの「『凜として灯る』で試みたこと」、モナリザ・スプレー事件の判決やウーマン・リブのメンタリティを切り口に「正しさを捉えなおす」、という大きなテーマを示しながら進んでいきました。終盤では、当日会場にいらしていた工藤春香さんと荒井さんとのやり取りがあったり、会場からも複数の質問が投げかけられたりと、活発なやり取りが起こる有意義な機会となりました。

参加者の感想としては、「展示を先にゆっくり見た後だったので、背景を知ることができ、なるほどと思うことが多くありました」、「単なる知識というよりは、具体的な経験や感覚に迫ろうとする荒井さんの姿勢が良かったと思います」、「《モナ・リザ》スプレー事件から50年経った美術館の現状やアートの「越境」についてなどを聞き、アートと社会についての考察が深められた」など、展覧会の鑑賞体験を一層深めるための機会になったようです。同時に、初めて当館に来館した方も2割ほどいらしたことから、美術分野に造詣が深い方のみならず、障害者文化や医療・福祉の分野に関心がある方々にも足を運んでいただくことのできる機会となったことがうかがえました。

なお、今回の講座ではプログラムへのアクセシビリティを鑑み、手話通訳を導入しました。実際に手話を必要とする方々の参加もみられ、必要な情報支援であったことが分かります。今後も多くの方にご参加いただけるよう、情報支援にも積極的に取り組んでいきたいと思います。(M.A

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