多田美波―光、凛と ゆれる

東京都現代美術館では、戦後日本において抽象彫刻家・造形作家として活躍した多田美波(1924–2014)の大規模個展を開催します。生涯でおよそ200点の彫刻作品と、500点に及ぶ建築関連作品を手がけた多田は、美術館という枠にとどまらず、公園、駅、市庁舎、ホテル、劇場など、都市のさまざまな場所に作品を残し、長年にわたり人々の生活空間の一部を形つくってきました。空に向かってすらりと伸びていくようなステンレスの彫刻や、自然の景観に心地よく馴染むガラスやアクリルの彫刻、あるいは色とりどりの光を内包する「光壁」など、その表現は素材・スケールともに多岐にわたります。

  • 多田美波《周波数37306505》1965
    「MOTコレクション Eye to Eye—見ること」(2024)展示風景 Photo: Masaru Yanagiba

  • 光壁《黎明》1970
    帝国ホテル、東京 撮影:作本邦治

多田は、高度経済成長期を背景に普及した工業素材や加工技術を、芸術表現に積極的に取り入れた先駆的作家のひとりです。制作の手跡を感じさせない無機質な表面に、光の反射や透過、屈折、揺らぎといった有機的な要素を取り込み、移ろいゆく周囲の環境や鑑賞者の動きと呼応して表情を変える造形を生み出してきました。これらの試みは、量塊性や安定性を重視するアカデミックな具象彫刻の規範から離れ、空間や環境との関係性を志向した、戦後の抽象造形における展開に位置づけられます。なかでも多田は、光を単なる効果ではなく造形の中心として据え、美術、プロダクトデザイン、インテリア、建築を横断しながら空間そのものに働きかける実践によって、同時代の潮流のなかでも独自の立ち位置を築きました。
こうした仕事は、新しい素材や技術に対する鋭い感受性と探究心、そして協働者である技術者との確かな信頼関係によって実現されました。その根底には、人間にしか創出できない美としての「第二の自然」を探究する姿勢が貫かれています。

本展では、多田美波研究所の全面的な協力のもと、初期の絵画、各時代の彫刻、作家本人が「光造形」と呼んだシャンデリアを含む照明の作品、およそ70点に加え、建築造形のパーツ、写真、スケッチなどのアーカイブ資料を展観し、約70年にわたる多田美波の仕事をあらためて俯瞰します。

  • 《炭鉱》1957
    炭労会館(1990年夕張市 石炭博物館に移設) 撮影:多田美波研究所

  • 《周波数373055MC》1963
    多田美波研究所蔵 撮影:野堀成美

  • 光造形 1968
    皇居・新宮殿、東京 撮影:野堀成美

  • 《座標》2009
    多田美波研究所蔵 撮影:末正真礼生

みどころ

1. 没後初となる回顧展
彫刻をはじめ、レリーフ、緞帳(どんちょう)、シャンデリア、ビルのファサード、照明器具まで美術・建築・デザインの領域を往還しながら活動した多田美波の仕事を総覧する、没後初となる大規模回顧展です。本展では、外光が差し込むアトリウムを含む約1,500㎡の地下展示室と、隣接する屋外展示エリアを使用し、多田の約70年にわたる創作の軌跡を空間全体で展覧します。立体表現への移行を予兆する絵画作品をはじめ、初期のブロンズ彫刻、アクリルやステンレスによって周囲の環境を映し込む代表的な作品、またプリズムのような鮮やかさを放つ陶板の彫刻、照明の仕事に加え、写真やスケッチなどの資料をあわせて展示。素材、光、空間との関係を軸に、多田美波の造形世界に迫ります。

  • 《Space Eye No.4》1975
    多田美波研究所蔵 撮影:多田美波研究所

  • 《Mirage》1989
    多田美波研究所蔵 撮影:多田美波研究所

2. 現存しない作品および照明作品の再制作・再構成
本展では多田美波研究所の協力のもと、現存しない作品や建築と不可分な照明作品を一部再制作・再構成し、美術館の空間においてあらためて展示します。
洗面台などで用いられるボールチェーンを素材としたシャンデリア、「チェーンデリア」(1963)は、松屋サロン(銀座)に設置され、多田が皇居・新宮殿の光造形を委託される契機となった記念碑的作品です。現存しない本作を、本展のために原寸大で復元します。また、リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクションの光造形《瑞雲》(1973)の一部を、制作当時のクリスタルガラス・パーツ約3,000個を用いて再構成します。
これらの試みを通して、多田が追求した光の造形を間近に体感する機会を創出します。

光造形《瑞雲》1973
リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション 撮影:作本邦治

3. 図録・トークイベントを通じて、多田美波の仕事を多角的に読み解く
戦後いち早く新しい素材に取り組み、技術や素材の研究を重ねながら表現を更新してきた多田美波は、同時代の前衛美術グループに属することなく、彫刻、建築、デザインの領域を横断して活動してきました。そのため、彼女の仕事の全貌を美術史において体系的に捉えることは、容易ではなかったと言えます。
本展では公式図録を刊行するとともに、研究者や専門家によるトークイベントを実施し、近年あらためて評価が高まりつつある作家について、その創作背景や美術史的意義を多角的に検証します。

《瑞光》2013
オリーブベイホテル、長崎 撮影:多田美波研究所

作家プロフィール

  • 多田美波研究所での制作風景 1978
    撮影:成瀬友康 (株)世界文化社提供

  • 多田美波(Tada Minami)
    1924年、台湾・高雄に生まれ、朝鮮で育つ。高校在学中に朝鮮美術展覧会へ出品し入賞。1944年、女子美術専門学校(現・女子美術大学)西洋画科を卒業し、1956年に第41回二科展、1957年第9回読売アンデパンダン展に油彩画を出品。1957年、東京・炭労会館のためにレリーフ《炭鉱》を制作。1962年、多田美波研究所を設立。代表的な彫刻作品に、半円球のアクリルにアルミニウムを蒸着メッキし鏡面のように仕上げた《周波数37306505》(1965、東京都現代美術館)やステンレスの屋外彫刻《キアロスクーロ》(1979、東京国立近代美術館)がある。建築空間における仕事としては皇居新宮殿の光造形(1968)や約7,600個ものガラスブロックから作られた帝国ホテルの光壁《黎明》(1970)、紫雲をイメージしたリーガロイヤルホテル大阪の照明《瑞雲》(1973)などがあげられる。2014年に逝去。主な受賞歴に「第8回日本国際美術展優秀賞」(1965)、「第1回ヘンリー・ムーア大賞」(1979)、「第6回吉田五十八賞」(1981)、「紫綬褒章」(1988)の受章、および「勲四等宝冠章」(1994)の叙勲。主な国内個展に「特別展 多田美波 ―光の迷宮―」(1991、渋谷区立松濤美術館、三重県立美術館)、「開館40周年記念 多田美波展 ―光を集める人―」(2009、彫刻の森美術館)など。

基本情報

会期

2026年8月29日(土)~12月6日(日)

開館時間

10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)

休館日

月曜日(921日、1012日、1123日は開館)、924日、1013日、1124

会場

東京都現代美術館 企画展示室 B2F

観覧料

一般1,600円(1,280円)/大学生・専門学校生・65歳以上1,100円(880円)/中高生640円(510円)/小学生以下無料

※(  ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットでMOTコレクションもご覧いただけます。ただし、8月29日~9月18日は展示替えのためご覧いただけません。
※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※毎月第3水曜(シルバーデー)は、65歳以上の方は無料です。(チケットカウンターで年齢を証明できるものを提示)
※家族ふれあいの日(毎月第3土曜と翌日曜)は、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住を証明できるものを提示/2名まで)の観覧料が半額になります。

主催

東京都現代美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)

企画協力

多田美波研究所

協賛

大塚国際美術館、鹿島建設株式会社

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