視覚に障害のある人も、ない人も ―美術館を、まるごと楽しむ
2026年7月28日に浦安市の視覚障害者の会「トパーズクラブ」のみなさんが来館し、MOTコレクション「はじめて、びじゅつ」を鑑賞しました。トパーズクラブは、全盲や弱視など、さまざまな見え方の人が所属する団体です。当日は、展示だけでなく、カフェやレストランでの昼食など、美術館全体を楽しむことを目的に、コーディネーターの方1名、視覚障害のある方10名、ボランティアさんやヘルパーさん、ご家族など11名の計22名が来館しました。
レクチャーの様子
展示室に行く前に研修室で、館内施設やアクセシビリティに関する取り組みなどについての簡単なレクチャーを行いました。レクチャー内では、鑑賞に向けて「美術の見方に決まりはないので、想像力を広げて、みんなで会話をしながら鑑賞を楽しみましょう」といった声かけもありました。レクチャーのあとは5つのグループに分かれ、自己紹介や物の見え方についてグループ内で共有してから、コレクション展示室に移動し、約1時間鑑賞を行いました。
研修室からコレクション展示室に向かう途中、インフォメーション横に設置されている触察模型に触るグループもいました。この模型は当館の構造や館内施設の位置関係をわかりやすく表したもので、美術館を楽しむためのキーワードも点字と墨字で記されています。
触察模型を触る様子
さらに廊下を進み、コレクション展示室に到着しました。大人数が同じ空間で鑑賞すると会話が交錯してしまうので、グループごとにスタート地点をずらして鑑賞を始めました。
展示室内の様子
展示室内には、さまざまな種類の表現の作品が展示されていて、それらの作品の前で美術館スタッフとヘルパーさんが色や形、大きさを共有し、そこから、見えない人、見えにくい人が作品の細部について質問をしたり、想像したことを共有しながらその場の全員で鑑賞しました。
こちらは大岩オスカールの《戦争と平和》を鑑賞しているグループの様子です。
この作品は左右に並ぶ二枚の絵画と、その間にあるライトボックスで構成されています。スタッフとヘルパーさんとが絵画に使われている色や描かれている情景に言及しながら、鑑賞を進めていきました。
そのなかで、左側の絵画についてスタッフが「暗い色が使われていて、空がなんだか光って見える」「爆撃のように見える」と伝えると「そんなものが描かれているんですね」という声があがりました。感想を伺うと、この方は戦争を体験されており、黒い空から焼夷弾が白い光となって地面に降り注ぐ光景を目にしたことなど、当時の記憶についてお話してくださいました。その後、作品に近づいて描かれているものを見つめ、うなずきながら鑑賞していました。
続いて、こちらは寺内曜子の《A Continuous Plane[ひと続きの面]》を鑑賞しているグループの様子です。
作品の前に立ち、大きさなどの特徴を話し合い、さらにじっくり観察すると「赤色と青色」「複雑な形をしている」「側面には紙が破れたような跡があるから、素材は紙だと思う」と作品を見て気がついたことが次々にあげられました。実は、この作品は片面を赤色、その反対の面を青色に彩色した一枚の紙から成り立っています。しかし、赤色の面と青色の面が複雑に絡み合っているように見えるため、本当に一枚の紙でできているのかと信じられない様子の人がいたり、作品の形状をうまく掴めないという人も。そこで鑑賞サポートとして、作品の形を模したツールをご用意しました。
寺内曜子《A Continuous Plane[ひと続きの面]》
ツールを触る様子
このツールは、素材のつるつるした面と凸凹した面を使って、色の違いを手ざわりで判別できるようにしています。まずは作品と同じ形状にクリップで固定した状態の模型に触ってもらいました。すると、全体像を指でなぞりながら「こんな形をしていたんだ」と嬉しそうに話す人や「これは確かに一枚で作れるね」と触ってすぐに構造を理解したという人もいました。続いて、固定していた部分を外し、くるくると巻かれていた両端を引っ張ると、本当に一枚の紙でできていることも分かりました。その後は、美術館スタッフの解説を手元のツールで確認しながら鑑賞を深めていきました。
また、このほかにもさまざまなツールをご用意し、必要に応じてツールを用いながら鑑賞しました。
大岩オスカールの使用していたパレットを触る様子
デイヴィッド・ホックニー作品の触図
小林正人作品の鑑賞サポートツール
鑑賞会終了後に「同じ作品なのに、感じることがそれぞれ違うことがすごく面白かった」とお話してくださる方がいました。ほかにも、鑑賞中に「よくわからないけど、面白い」「楽しい」という声が聞こえてきたり、後日いただいた感想には「想像を巡らせるのがなかなか難しかったけれど、楽しかった」「昼食を館内のレストランやカフェでとり、鑑賞だけでなく美術館で過ごす時間も楽しめた」「今回の鑑賞をきっかけに、ほかの美術館や博物館にも行ってみたくなった」という声もありました。
来館される前は「美術館を楽しめるのか」「現代美術って難しそう」と感じる方も多かったようですが、展示室での様子やいただいた感想から、美術館で過ごした時間がみなさんにとって楽しい体験となっていたことが分かり、嬉しく思います。ぜひ、またお気軽に足をお運びください。(R.T)
