2023年11月02日(木)

視覚障害のある方との鑑賞と創作プログラム

ミュージアム・スクール

スクールプログラムとして、10月1日(日)に視覚障害のある方5人と女子美術大学の学生や教員、介助者の方との作品鑑賞プログラムを実施しました。

今回の鑑賞プログラムは、女子美術大学ファッションテキスタイル表現領域の研究チームによるプロジェクトの一環として、視覚障害のある方たちと美術鑑賞をしたいというご相談から始まりました。
このプロジェクトでは、視覚障害のある方たちと美術や衣服、ファッションに関わるワークを重ね、最終的に触覚を意識した衣服を作ることを目指しており、その足掛かりとして美術館を訪問し、美術作品としてどのようなものがあって、どのような意味を持って作られているかを考える機会を設けたいというご希望でした。また、中には美術館には行ったことがなく、美術作品の鑑賞経験がない方もいるため、触覚を意識した鑑賞体験をしたいというリクエストも。

そこで、提案したのは、屋外彫刻作品の鑑賞と創作とをつなぐプログラムです。

当日は、総勢16名が参加。最初にあいさつと自己紹介を行い、どんな人たちがこの場にいるかを確認したら、美術館広場にあるリチャード・ディーコン《カタツムリのようにB》から鑑賞スタート。

みんなで少し離れたところから作品全体を観察。全体の印象や作品を見て気づいたことなどを話していきます。

その後、視覚障害のある方と晴眼者とがペアになり、作品を触ったりしながら鑑賞を進めていきました。
本作は、高さが約5mある大きな作品です。「手に持った白杖を伸ばしても上部まで届かず、さらに白杖もう1本分くらいの高さがあります」といった身近なものを取り入れた説明も。
作品がどのようにカーブしていて、床に設置している部分がどのようになっているかなど、手が届く範囲で作品を触って確かめていきます。

ひとしきりペアで見たら、再度みんなで集まり、発見したことなどを話します。
中には、作品の鉄柱の間隔が一定ではないことに気づいた方もいました。ぱっと見ただけでは、なかなか気づけないポイントに「おお~っ!」と参加者から声が上がります。

他者の感想や気づきを通して、作品の印象も変わっていきます。最後にもう一度作品を触る時間も。
ひとしきり鑑賞した後に、本プロジェクトを立ち上げた女子美大の眞田岳彦さんからお話がありました。実は、眞田さんは、1994年頃にリチャード・ディーコンのアシスタントを務めていたことがあり、そのときのエピソードも披露してくださいました。

続いて、公園口にそびえ立つアンソニー・カロの《発見の塔》へと移動。

まずは、みんなで作品を眺めて、どんな作品かを話します。その後、再びペアになって、作品を触りながら鑑賞を進めていきました。

本作は、様々な形をしたスチールの板を組み合わせて作られています。
残念ながら作品メンテナンス中のため、塔にのぼることはできませんでしたが、手が届く範囲で作品を構成しているパーツを触ったり、中に入ったりして作品を体感していきます。作品を構成しているパーツに同じものはなく、カクカクしていたり、緩やかにカーブしていたりと、場所ごとに形は異なります。
再びみんなで集まってどんなことを発見したか話します。「ペアシートのような場所があった!」という気づきもありました。

40分ほどかけて作品を鑑賞した後、スタジオに戻って創作です。
みなさんに取り組んでいただいたのは、アンソニー・カロの《発見の塔》から着想を得た紙素材のパーツを自由に組み合わせて、オリジナルの塔を作るというワーク。

「作家が作品を作るときには、コンセプトを考えて作っている。なんとなくパーツを組み合わせて手先を動かしていくのではなく、どんな塔にするか考えて作ってください」といった声掛けを受けて制作開始。今回のプログラムでは“作品制作をする上でのコンセプトを考える”こともポイントです。

塔作りも、ペアになって進めていきます。

ベースとなる支柱に、約30種類のパーツとパーツを貼り合わせるシールを使って塔を形作っていきます。
最初は少々戸惑う様子も見受けられましたが、エンジンがかかってくると次第に手を動かすスピードもアップ! パーツを折りたたんだり、細かな筋をつけたりして作っていく塔もあれば、木が枝葉を広げていくかのように形作られる塔も。また、パーツは支柱に付けていくもの、というイメージを打ち崩すように、横に這わせてつなげていく人もいました。それぞれに独創性に富んでいて、見ている私たちもわくわくします。

約40分の制作時間を経て、作品が完成! 一人ずつどんな塔をイメージして作ったか発表していただきました。

《ペンギンの塔》。こちらは葉っぱをちりばめて花を咲かせた、という塔。パーツを折り曲げたりして葉脈に見立てた痕跡もあります。

《せんたくものがかわく塔》。どこに太陽があっても、パーツの隙間から陽の光が入ってきて、洗濯物が乾く塔というコンセプト。

こちらは《のぞいても定まらぬ塔》。かつて見えていた頃に散弾銃を撃っていたという経験をもとにつくられました。塔のベースとなる支柱を的に見立て、穴のあいたパーツや丸く筒状にしたパーツを組み合わせて、的を狙うのぞき穴にしたという塔です。でもズレているから、のぞいても目標には定まらない、というコンセプト。
パーツが横に広がっていくという発想に驚きました。

最後にお互いの作品を触ってみる時間を設けました。
完成した塔は、一人ひとり全く異なるコンセプトで、塔の概念が広がるような作品ばかりでした

今回のプログラムでは、視覚障害のある方とない方とが、作品を触ってわかること、見て気づくことを伝え合いながら鑑賞を深めていきました。自分なりの発見や他人の見方、作品にまつわる情報などを通して、作品のイメージは広がっていきます。そのような作品鑑賞を経て、さらに塔を作るという創作活動も体験いただいた今回のプログラム。見たり、触ったり、話したり、作ったりと様々な感覚を使う一日となりました。(A.T)

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