2021年03月31日(水)

特別支援学校・学級限定! アーティストの一日学校訪問(内海聖史さん)レポート1

アーティストの1日学校訪問

当館の収蔵作家が、都内の学校を訪問して授業を行う「アーティストの一日学校訪問」。バリアフリー対策事業の一環として、昨年度(2019年度)にご用意した特別支援学校・学級限定のプログラムを、今年度も引き続き実施いたしました。

講師をお願いしたのは、過去にも当館での訪問授業を経験されたことのある、画家の内海聖史さん。内海さんは色彩の持つ美しさや可能性と向き合いつつ、その作品と空間、鑑賞者との関係性についても考えを巡らせながら意欲的な制作を続けていらっしゃいます。

今年度は「新しい絵画を体験しよう」という大きなテーマのもと、各学校・学級ごとにアレンジした内容の授業を実施しました。都内5校(小学校3校、中学校1校、高等学校1校)で行った授業の様子をご紹介します。


【1校目】

 葛飾区立梅田小学校(あおぞら学級) 5、6年生 16名
 授業内容:「かっこいい緑をつくろう!」

本授業では、自由に絵の具を混色して色を作り、四つ切サイズの画用紙に、筆や刷毛、スポンジローラーなどを使いながら、思い思いに色を塗っていきます。画用紙は一人何枚でも使用して構いません。1枚目よりも2枚目、2枚目よりも3枚目のほうが「かっこいい緑」となるように塗っていくことが唯一のルールです。

まず内海さんの自己紹介をした後、早速授業の説明に移ります。

「緑色って何色と何色を混ぜたらできますか?」という内海さんからの質問には、「青と黄色!」とすぐに答えが返ってきました。しかし、内海さんは「そうだね、でも本当にそれだけ?」と更なる質問を投げかけます。「緑ってたくさんあるんじゃない?色々な色を混ぜて作ってみよう。」ここから一人一人の制作がスタートです。

制作時間が始まると、児童たちは勢いよく絵の具や道具を選び始めます。用意されていた色をそのまま使うだけではなく自由に混色しながら、様々な塗り方にも挑戦していきます。時間が経つごとに描画道具の使い方にも工夫がみられ、多様な作品が出来上がっていきました。

一人何枚もの画用紙に取り組み、100枚用意していた白い画用紙が全て色づきました。「かっこいい緑」というきっかけからスタートしましたが、制作を進める中で様々にかっこいい色が出来上がりました。最後は全員の作品をつなぎ合わせて展示し、鑑賞会を行いました。

「みんなが持っている緑色の絵の具は、いくつくらいありますか?緑、黄緑、エメラルド、深緑、ビリジアン…。でも皆で緑を作ろうって言ったら、1時間で100色できました。緑ではないって思う色もあるかもしれないけれど、これと何か似ていませんか?」

そう言いながら内海さんが見せてくださったのは、様々な色の落ち葉。その日、内海さんは授業の合間に、校庭で何枚もの落ち葉を集めていたのでした。

「実は、自然の中の色はとても多いですよね。みんなが見ているものって、とてもたくさんの色があります。みんなが持ってる絵の具セットの色数より、何十倍も何百倍も、実は色ってとっても沢山あるんだよね。」とのお話がありました。

制作時間には元気いっぱいに描いていた児童たちですが、内海さんのお話には真剣な眼差しを向け、じっと耳を傾けていました。

最後には、内海さんが持参された作品の鑑賞も行いました。

「この絵はどんなもので描かれたと思う?」との質問に対し、即座に「綿棒!」との答えが返ってきました。これには内海さんも先生もびっくり!内海さんの作品は、綿棒を使いながら絵の具の点を重ねていく手法で描かれています。先生からはこの話を伝えたことはないようで、「どうして知っていたの?」と尋ねると、「ビデオに映っていたでしょ?」とのこと。事前学習で見た映像の、わずかな瞬間をしっかりと覚えていたようです。

先生からの授業後アンケートでは、
「参加した全ての子が、のびのびと表現することができていました。普段の図工では味わえない経験ができたと感じています。」
「特別支援学級なので、いつも作り方を細かく説明していたのですが、今回の授業のように、大きなテーマを与え、子ども達の感性に任せるということも大切だと思いました。」とのコメントをいただきました。

後日、図工の時間には、内海さんと同じように綿棒を使用した絵画制作を行ってくださったようです。

その際にも、こどもたちの積極的に取り組む様子が見られたとのことで、今回のアーティストとの出会いが、じわじわと彼らの中に浸透している様子をうかがい知ることができました。

【2校目】
 筑波大学附属大塚特別支援学校 中学部1~3年生 16名
 授業内容:「いろいろな道具で描こう」

授業内容は「いろいろな道具で描こう」。筆やハケなどの描画道具をそのまま使うのではなく、本来は描画用途でない様々な道具を使いながら、画用紙を「かっこよく塗る」ことに挑戦しました。事前授業の中で選んだり組み合わせたりした道具を使用し、自由な方法で色を塗っていく内容です。

用意された色は、ピンク、オレンジ、黄色、黄緑、水色の5色。体育館の中にブルーシートが敷かれ、その上に色ごとの作業机が設置されました。それぞれの机には各色の色紙が貼られており、視覚的にも分かりやすい状態で準備がなされていました。

授業が始まると、内海さんから授業内容の説明がありました。内海さんは、実際に画用紙に色を塗りながら手順の説明を行います。生徒たちは、その様子を一生懸命に見ながら状況を把握しようとしているようでした。

説明を聞き終えたら、色や道具を選び制作スタートです。必要に応じて先生方のサポートも受けながら制作を進めていきます。

一枚の画用紙に対して根気よく丁寧に塗っていく生徒もいれば、思い切りの良い表現でどんどん枚数を重ねていく生徒もいました。失敗することのないテーマだったこともあり、生徒一人一人のペースで、のびのびと安心して取り組めていたように思います。また、使用する色が限定されていたからこそ、道具とよく向き合いながら表現することもできました。

制作を終えたら、全員の作品を鑑賞します。ユニークな表現がなされているものや、熱心に制作していたものなど、内海さんからコメントをいただきながら他者の表現にも触れていきます。

さらに「一度では到達できないことでも、みんなと一緒に何度も何度も挑戦すると、最初には思い付かなかったところにも辿り着けると思います。一人だと物凄く頑張っても56枚だけど、これだけの人数がいると100枚でも描くことができます。自分がやってることが隣の人にも伝わるというのも面白いですよね。」とのお話もいただきました。

この生徒たちの作品は、授業後に先生方が廊下に掲出してくださったようです。

そして最後には、内海さんの作品も鑑賞しました。

作品を見た瞬間、生徒たちからは歓声があがり、「桜だ!」などの声も聞こえてきました。生徒や先生からの質問にも内海さんは丁寧に答えてくださり、完成まで8ヵ月間かかったことや初めに描き始める部分についてなど、作品の裏話を聞いた生徒たちも興味深そうに作品を眺めていました。

先生方からは、以下のような感想をいただきました。

「生徒たちが夢中になって制作に取り組み、一人一人が様々な表現方法で楽しく活動している様子が伺えました。」
「表現方法は多様になってもいいこと、どんな表現も唯一無二で生徒の面白発想を大切にすることを学びました。」
「表現しているときの生徒が夢中になっている姿がとても印象的です。内海先生をお招きして、学習環境を整えてよかったです。」

(M.A)
----レポート2へつづく。

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