MOTアニュアル2022
私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ

現代の表現の一側面を切り取り、問いかけや議論の始まりを引き出すグループ展、MOTアニュアル。18回目を迎える本展では、大久保あり、工藤春香、高川和也、良知暁の4名のアーティストを迎え、言葉や物語を起点に、時代や社会から忘れられた存在にどのように輪郭を与えることができるのか、私たちの生活を取り巻く複雑に制度化された環境をどのように解像度をあげて捉えることができるのかを共に考えます。
パンデミックや理不尽な攻撃が横行する不条理な事態が続く中、善悪の行方があやふやになりつつあります。異なる背景を持つ者同士の差異に目を向け、そこから生まれる誤解や矛盾を自分ごととして捉えるにはどうしたらいいのでしょうか。わかり合えない他者を受け止め、許すことはできるのでしょうか。言葉は、文化を共有するための手段であると同時に、その差異が対立の要因となることがあります。言葉による記述の外で、忘れられる存在もあります。本展では、語ることや記述の困難さに向き合い、別の語りを模索するアーティストたちの試みを取り上げます。

参加作家 :大久保あり/工藤春香/高川和也/良知 暁 
(各アーティストの新作を含めた映像、インスタレーションを展示)

ハンドアウト

高川和也《そのリズムに乗せて》52分
上映開始時間: 10:30/ 11:25/ 12:20/ 13:15/ 14:10/ 15:05/ 16:00/ 16:55

展覧会のみどころ

新作や再構成による本展のためのインスタレーションを制作

参加アーティストはそれぞれ、本展のための作品を制作しています。模索の中でつくられる現代美術作品ならではの、現在性に触れていただくことができるでしょう。

高川和也は、ラッパーのFUNIをはじめとする複数人の協力者のもと、自身がラップに挑戦する新作映像を制作中です。人間が感情を言葉で表した時、何を得ているのか、あるいは失っているのか。アーティスト自身の体験を記録したセルフドキュメンタリーとなります。
工藤春香は、これまでの作品で扱ってきた旧優生保護法や相模原殺傷事件を基底に、現在、障害者支援施設を出て自立生活をする方への取材を交えた新作インスタレーションを行います。子育てをしながらアーティスト活動を続ける自身を含む、女性たちの歴史についての考察も重なります。
大久保ありは、過去の13の作品をモチーフにしたインスタレーションで、複数の物語と時間軸が交差する新たな物語を編纂します。自身の過去の作品を再構成することで、時間の組み換えや、語りの主体と客体の入れ替わりにより、ある記述には常に別の物語の可能性が内包されることを伝えます。
良知暁は、2020年に10年ぶりとなる個展で発表した、1960年代にアメリカ、ルイジアナ州で行われた投票権をめぐるリテラシーテストで使われた一節を軸とする作品を展示します。読み書き発音などが恣意的な判別の装置として、目に見えない形で行われる差別をめぐる思索である本作を、美術館という公共空間で再現する試みです。

記述されない生を想像し、忘れられた存在に触れる

本展の作品の中には、社会の中で語ることが忌避されがちな問題も含んでいます。しかし、その扱い方は、ニュースや評論の中で事実として説明したり評したりするのとは異なります。言葉が心理に与える影響についての実験的な行為や、記述される歴史に表れづらい個人の生への想像など、アーティスト自身が対象との接点を深め、価値観を揺り動かされる中で見出した気づきとして表されます。また、フィクションや記号による抽象化を行いながら、自他の境界を越え、外側にある問題や忘れられた存在に触れようとする態度は、物語や創作の持つ可能性を示すと同時に、歴史の集団的記憶における忘却への抵抗でもあります。

潮流に流されることなく続けられてきた芸術実践

MOTアニュアルは、最新の美術動向を紹介する側面を持つ一方、一つの傾向にくくることができない、そこから取りこぼされる多様な美術作品のあり様を示す場でもあります。本展はそのような観点から、これまで美術館等での紹介の機会が少なかったものの、優れた実力を持ったアーティストに光をあてます。
アーティストによる芸術実践は、生活の中で育まれるもので、必ずしも作品という形として表れるとは限りません。彼らは、展示機会があるかないかに関わらず、自身の関心を追究し、リサーチや制作を続けています。本展は、現在を生きるアーティストが続けてきた思索と実践を広く共有する場として、慣れ親しんだ言語の外側にある物語を想像し、体験する機会とすることを目指します。

プロフィール

1. 高川和也|TAKAGAWA Kazuya
1986年生まれ。東京造形大学造形学部美術学科卒業。東京藝術大学大学院修士課程修了。2007年より国内外のグループ展、レジデンス等に参加。映像による制作を行っている。これまでに、高川自身になりきった心理カウンセラーとの対話や、見知らぬ人同士の合意形成を行う様子を捉えた実証実験的な映像やプロジェクトがある。鬱病患者や戦争体験者の言葉の収集を行うなど、言葉が人の心理に与える影響に関心を持っている。高川の新作は、ラッパーのFUNIらと協働し、言葉によって自分自身を表現することと、それによる作用について探るドキュメンタリーとなる予定である。

  • 高川和也《ASK THE SELF》2015年

  • 高川和也《CONSENSUS》2014年

2. 工藤春香|KUDO Haruka
1977年生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。現在、リサーチ・コレクティヴの「ひととひと」メンバー。絵画の制作から始まり、2010年代後半から、社会的な課題へのリサーチを基に、語る言葉を持たない人々への想像から、テキストやオブジェ、映像を組み合わせたインスタレーションを制作している。制度や法が人々の価値観にどのように影響を与え、内面化されているかを問う。本展では、旧優生保護法の成立や相模原殺傷事件について扱ってきたこれまでの制作を基に、相模湖の歴史とそこから見える資源、福祉、労働を巡る社会構造や、見えづらくされている存在の声と視点を映し出すインスタレーションを行う。

  • 工藤春香《生きていたら見た風景》2017年 展示風景

  • 工藤春香《静かな湖畔の底から》2020年 展示風景

3. 大久保あり|OOKUBO Ari
1974年生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ サーティフィケイト美術コース修了。ロンドン芸術大学チェルシーカレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン修士課程修了。2000年代初めから、国内を中心に多数のグループ展に参加、個展を開催している。自身の夢や経験から派生したフィクションを基に、パフォーマンスや印刷物、テキストとオブジェによるインスタレーションなどで見せる。記憶や語りの持つ曖昧さや多重性を映し出すことで、歴史の揺らぎの中で宙吊りになり、忘却されたものの存在に触れようとする。本展では、過去の自身の作品を再構成し、博物館的時間の中で召喚される記憶や物により、新たな物語を編纂する。

  • 大久保あり《パンに石を入れた 17 の理由》2013年 展示風景(撮影:畔上咲子)

  • 大久保あり《I'm the Creator of this World, You're One of the Materials Existing in the Universe(私は世界を司る あなたは宇宙に存在する要素)》2018年 展示風景

4. 良知 RACHI Akira
1980年生まれ。ボーンマス美術大学写真学科卒業。近現代史、特に投票制度にまつわるリサーチに基づく作品制作や、歩行や質問など日常の行為を通した芸術実践を行う。時にテキストや写真、パフォーマンスなどに展開されるそれらの実践からは、制度や表象が持つ政治性や過去の出来事に対する断続的な想起の可能性が見いだせる。発話の差異によって区別される歴史をめぐる「シボレート / schibboleth」は、曖昧なまま理不尽に敷かれる分断線と、それを生み出し、翻弄される人々についての思索となった。本展では、同展示の再構成を試みる。

  • 良知 暁「シボレート / schibboleth」のためのエフェメラ 2020-21年(撮影:川村麻純)

  • 良知 暁《15:50》(「シボレート / schibboleth」における展示)2020-21年 (撮影:川村麻純)

基本情報

会期

2022年716日(土)- 1016日(日)

休館日

月曜日
718日、919日、1010日は開館)、719日、920日、1011

開館時間

10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)

観覧料

一般 1,300円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 900円 / 中高生 500円 / 小学生以下無料

※ 本展チケットで、「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※ 小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※ 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳持参者とその付き添いの方(2名まで)は無料です。
※ 予約優先チケットもございます。予約優先チケットはこちら

会場

東京都現代美術館 企画展示室3F

主催

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

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