サンプライド財団共催展 スペクトロシンセシスⅤ
ならば、発明せよ
東京都現代美術館はサンプライド財団(Sunpride Foundation)との共催による国際グループ展「スペクトロシンセシスⅤ|ならば、発明せよ」を開催いたします。
香港を拠点とするサンプライド財団は、性的少数者を含めたすべての人々の平等と共生の実現に貢献することをミッションに、現代美術作品を収集し、各国で展覧会シリーズ「スペクトロシンセシス」を開催しています。その第5弾となる本展は、日本の社会的、文化的文脈を出発点に、サンプライド財団と東京都現代美術館のコレクション、新作、借用作品、アーカイブ資料などを通じて、異なる世代や地域の芸術実践を紹介します。
本展タイトル「ならば、発明せよ」は、エイズ危機の只中で発表されたダムタイプのパフォーマンス作品《S/N》(1994年)からの一節を引用しています。ダムタイプはこの作品で、ジェンダーやセクシュアリティを含む個人のアイデンティティや病を定義・分類する社会のシステムに向き合い、そのなかでいかに別のつながりやコミュニケーションを生み出せるのかを模索しました。こうした実践を起点とする本展は、ジェンダーやセクシュアリティをめぐる社会規範の効力と、個の生とのあいだに生じる緊張関係を複数の視点から描き出す、国内外の幅広い世代のアーティスト24人/組による作品群を取り上げます。アーティストたちは、絵画、立体、写真、映像等、メディアを問わず、身体や欲望をめぐる既存の表象や物語を問い直し、語られてこなかった経験や歴史に光を当てるとともに、性規範が国家、人種、階級などに関わる権力構造とどのように結びつき、相互に作用しているのかを探ります。また、パフォーマンスとアクティビズムの両領域にまたがるアーティストたちの実践にも着目し、身体を通じた表現や行為が、自己のあり方や他者との関係にどのような形を与え、変容させうるのかを考察します。ここでの「発明」とは、単に何か新しいものを作り出すことではなく、既存の枠組みでは捉えきれない生のあり方や関係性を模索し、具体的な形を与え、それを生きるための継続的な営みを指しています。
本展では作品に加え、インフォーマルで間接的なつながりを創出してきたメディアとして、ジェンダーに関するZINE、ラジオ番組、ミニコミ誌のアーカイブなども紹介します。また、《S/N》と同時期にダムタイプのメンバーが、他のアーティストやアクティビストと展開した「エイズ・ポスター・プロジェクト」に関するアーカイブ資料も、美術館ホワイエで展示します。また会期中、アーティストによるパフォーマンス、ワークショップ、上映会など、多数のイベントを開催します。
ダムタイプ《S/N》1994年、作家蔵 撮影:高谷桜子
出品作家
アキラ・ザ・ハスラー(Akira the Hustler)、ベンジ・ラ(Bhenji Ra)、ブーペン・カカール(Bhupen Khakhar)、コール・ルー(Cole Lu)、ダムタイプ(Dumb Type)、エレン・パウ(Ellen Pau)、遠藤麻衣&百瀬文(Endo Mai & Momose Aya)、エヴェリン・タオチェン・ワン (Evelyn Taocheng Wang)、イトー・ターリ(Ito Tari)、ジャッカイ・シリブート(Jakkai Siributr)、ジーン・バース(Jean Barth)、ミン・ウォン(Ming Wong)、森栄喜(Mori Eiki)、大塚隆史(Otsuka Takashi)、パピーズ・パピーズ(ジェイド・グアナロ・クリキ=オリヴォ)(Puppies Puppies [Jade Guanaro Kuriki-Olivo])、嶋田美子+ブブ・ド・ラ・マドレーヌ(Shimada Yoshiko + BuBu de la Madeleine)、シュウ・リー・チェン(Shu Lea Cheang)、シン・ワイ・キン(Sin Wai Kin)、サイレン・チョン・ウニョン× KIRARA(siren eun young jung × KIRARA)、ソンファン・キム(Sung Hwan Kim)、高田冬彦(Takata Fuyuhiko)、トレバー・ヤン(Trevor Yeung)、ウー・ツァン(Wu Tsang)、シアディエ(Xiyadie)ほか
*英語表記のアルファベット順、敬称略
展覧会のみどころ
ミン・ウォン、高田冬彦、アキラ・ザ・ハスラー、ソンファン・キム、コール・ルー、パピーズ・パピーズ(ジェイド・グアナロ・クリキ=オリヴォ)、6名のアーティストが新作を発表
ミン・ウォンは、自身の作品《Life and Death in Venice》(2010年、サンプライド財団蔵)で引用した映画『ベニスに死す』(1971年)で、タジオ役を演じた俳優ビョルン・アンドレセンに焦点を当てます。日本の少女漫画と、そこにおける男性同士の性愛表現にも影響を与えたアンドレセンをめぐる文化的現象を掘り下げます。高田冬彦は、ダンサーやパフォーマーと協働し、外に映し出される自らのイメージと、自己の内のあいだに生じる心理的な揺れ動きを映し出す映像インスタレーションを制作します。アキラ・ザ・ハスラーは、既存作品「雲男」が掲げる新たな旗と、大腿骨をかたどった立体作品を発表します。自身が目にしたACT UPのエイズ・アクティビズムや、トランスジェンダーに対する差別発言を起点に、自らの言葉を刺繍や刻印で作品に組み込み、HIV/AIDSや性的少数者を取り巻く今日の状況を問いかけます。映像やパフォーマンスを通じて、歴史からこぼれ落ちてきた経験や、移動と境界をめぐる身体、ジェンダー、帰属の問題を探ってきたソンファン・キムは、既存作を展示するほか、作曲家デヴィッド・マイケル・ディグレゴリオ(dogr)と協働し、会期中にパフォーマンスを発表します。コール・ルーは、クィアな主体性や、ジェンダー・マイノリティの歴史と記憶の抹消をめぐるサイトスペシフィックな新作を発表します。サンプライド財団の所蔵作品にも見られる、既存の物語や神話を書き換える実践を展開するものです。パピーズ・パピーズ(ジェイド・グアナロ・クリキ=オリヴォ)は3Dプリントで自身の身体をかたどった立体を通じて、地面に横たわる抗議行動「ダイ・イン」について考察する作品を制作します。
ミン・ウォン《Life and Death in Venice》2010年、サンプライド財団蔵
Image courtesy of the artist and Sunpride Foundation
高田冬彦《Cut Suits》2023年、東京都現代美術館蔵
©Fuyuhiko Takata, courtesy of the artist and WAITINGROOM
クィアSF映画のパイオニア シュウ・リー・チェンの大型インスタレーション《LOVER LOVE》を日本初公開
『フレッシュ・キル』(1994年)、『UKI』(2023年)など、日本にも根強いファンがいるクィアSF映画のパイオニア、シュウ・リー・チェンによる最新インスタレーション作品が日本で初公開されます。ニューヨークのレスリー・ローマン美術館で2026年4月に発表された《LOVER LOVE》(2026)は、異なる世代のトランスジェンダーおよびジェンダー・ノンコンフォーミング(性別の枠組みに縛られない)のパフォーマー8名との協働によって制作された4チャンネルの映像インスタレーションです。それぞれの経験と語りを織り込みながら、ドキュメンタリーとフィクション、物理的空間とヴァーチャル空間を行き来し、自己のありかた、生きること、そして他者との親密性をめぐる問いを探ります。鑑賞者が動かすことができるスクリーンと、その動きに対応するサウンドによって、鑑賞者は映像と音響が織りなす空間の一部となり、何が見え、何が聞こえてくるのかに直接関与することになります。
シュウ・リー・チェン《LOVER LOVE》2026年、作家蔵
サンプライド財団コレクションからー日本初紹介のアーティストたち
本展の構成上で重要なサンプライド財団のコレクションからは、コール・ルー、シン・ワイ・キン、シアディエの3名が日本で初めて紹介されます。
神話や文学作品、歴史的なイメージ、アーカイブ資料などを参照した寓意的な作品で知られるコール・ルーは、新作に加え、サンプライド財団所蔵の初期作品を紹介します。制作に火を取り入れるきっかけになったこの焼画では、「ピノキオ」の物語を新たに解釈しています。シン・ワイ・キンは、ドラァグを取り入れた映像、版画、パフォーマンスを通じて、二項対立的なものの見方に揺さぶりをかけ、私たちのものの見方や振る舞い、存在のあり方がいかに形づくられるのかを探ります。シアディエは、中国の伝統的な切り絵の技法を用い、異性愛婚や家族をめぐる社会規範と同性への欲望との葛藤、そして親密さへの希求を、自身の経験に根ざした鮮やかなイメージで描き出します。
さらに、日本ではこれまで紹介される機会の少なかった作家たちの作品も展示します。香港のニューメディアアートの先駆者であるエレン・パウは、広東オペラの女性デュオを題材とした映像作品を通じて、伝統と現代のあいだで揺れ動くジェンダーやアイデンティティのあり方を描き出します。ジャッカイ・シリブートは、友人たちから寄贈された衣服を解体し、キルトとして再構成することで、エイズ・メモリアル・キルトやLGBTQ+の権利運動における視覚表現を参照しながら、個人の経験や記憶と、差別に対する抵抗や連帯の歴史を重ね合わせます。
シン・ワイ・キン《Tell me everything you saw, and what you think it means》2018年、サンプライド財団蔵
Image courtesy of the artist, Blindspot Gallery and Sunpride Foundation
嶋田美子+ブブ・ド・ラ・マドレーヌ《メイド・イン・オキュパイド・ジャパン》1998年、東京都現代美術館蔵
©Yoshiko Shimada and BuBu de la Madelaine
パフォーマンス、ジェンダー、セクシュアリティ:1990年代の日本における実践から
本展では、1990年代の日本におけるジェンダーやセクシュアリティをめぐるパフォーマンスの実践にも焦点を当てます。展覧会タイトルにその言葉を引用したダムタイプの《S/N》(1994年)については、記録映像に加え、制作スケッチや関連するアーカイブ資料を展示します。嶋田美子とブブ・ド・ラ・マドレーヌによる《メイド・イン・オキュパイド・ジャパン》(1998年)は、パフォーマンスやドラァグの手法を用いながら、ジェンダーや国民性をめぐる既成の表象を揺さぶり、戦後、日米関係が複雑に絡み合う中で、日本の女性性やセクシュアリティがいかに構築されてきたのかを問いかけます。また、イトー・ターリによる《自画像》(1996-97年)と《わたしを生きること》(1998-99年)を記録映像、スケッチ、その他アーカイブ資料を通して紹介します。イトーはこれらのパフォーマンスにおいて、自らのレズビアンとしてのアイデンティティを表明し、自身の身体を主体性をめぐる葛藤や交渉の場として提示します。
基本情報
- 会期
2027年2月6日(土)ー 5月16日(日)
- 開館時間
10:00ー18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
- 休館日
月曜日(3月22日、5月3日は開館)、3月23日、5月6日
- 会場
東京都現代美術館 企画展示室 1F、ホワイエ
- 観覧料
一般1,700円(1,360円)/65歳以上1,190円(950円)/大学生・専門学校生1,090円(850円)/中高生680円(540円)/小学生以下無料
※( ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットでMOTコレクション(2月20日~)もご覧いただけます。
※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※毎月第3水曜(シルバーデー)は、65歳以上の方は無料です。(チケットカウンターで年齢を証明できるものを提示)
※家族ふれあいの日(毎月第3土曜と翌日曜)は、18歳未満の子を同伴する保護者の観覧料が半額になります。(都内在住証明提示/保護者各自提示で2名まで)
[Welcome Youth 2027]
3月2日(火)~4月4日(日)の期間、18歳以下(2008年4月2日以降生まれの方)は無料です。(年齢を確認できる証明書を提示)- 主催
東京都現代美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、サンプライド財団
- 共同キュレーター
X・ジュー=ノウェル(ロックバンド美術館エグゼクティブ・ディレクター兼チーフ・キュレーター)
サンプライド財団について
サンプライド財団はLGBTQ+コミュニティの豊かな創造的歴史を受け入れ、広めることを使命として2014年に設立されました。同財団は、LGBTQ+の人々とその支援者(アライ)にとって、より強固で健康的かつ公平な世界を育むこと、そして社会全体に向けて訴えかける芸術作品の展示や保存を通じて、次世代の若手アーティストが前向きな変化を生み出し行動を起こすよう促し、インスピレーションを与えることを目指しています。同財団が主催する展覧会シリーズ「スペクトロシンセシス」はこれまで台北現代美術館(2017年)、バンコク芸術文化センター(2019-20年)、香港の大館コンテンポラリー(2022-23年)、ソウルのアートソンジェセンター(2026年)で開催されました。本展はその第5弾にあたります。
