2022年09月07日(水)

8/20 「MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」展  関連イベント アーティストトーク レポート

「MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」展の関連イベントとして、8/20(土)の14時から参加アーティストである高川和也さん、工藤春香さん、大久保ありさん、良知暁さんの4人が、本展出品作を中心に、自身の活動について一人ずつ話しました。なお、高川和也さんは都合により本イベントに参加できなくなったため、高川さんが本展カタログに寄稿した原稿を本展担当学芸員の西川美穂子が代読しました。

当日の様子をMOT2022年度インターン生がレポートします。

高川和也さんのカタログ寄稿原稿を代読する本展担当学芸員

高川和也さんは、ラッパーのFUNIや複数の人々の協力のもと、自身の過去の日記をラップにすることに挑戦する約50分のセルフドキュメンタリーを展示しています。

高川さんは、作品のきっかけとなる日記について、欲望や苦悩、愚痴を正直な言葉として書いていくうちに、自身の感情との間に距離を生む事ができるという可能性に気づき、それに救いを感じ、「言葉」へ関心を持つようになったと言います。そして言葉への関心が、さらにはラップへとつながっていったということでした。
そのラップについては、聴き始めた当初は、ラップ=韻という認識だったものの、次第にその認識は変わり、日記を書いていたときに高川さん自身が感じたのと同じように、ラッパーにとってのラップは自らの感情や思考と距離を取るための技術として使われているように思えたと続けました。
ただ、では言葉にすることで全て解決するのか、そうして言葉にすることで失うものがあるとすれば何か、という疑問が生じ、自分自身の体験を通してそのことについて研究・実験を行う過程を記録したドキュメンタリーである今作の制作が始まったということでした。
また、過去の日記をラップにする過程で行った他者による日記の読み解き会や、ラッパーのFUNIとの会話やラップのレッスンで直面した苦悩や葛藤についても言及されました。

工藤春香さん
※右が工藤春香さん

工藤春香さんは、優生政策の歴史や障害当事者運動についての複数のリサーチに基づく作品を展示しています。

今作は、2017年の作品《生きていたら見た風景》と2020年の作品《静かな湖畔の底から》で扱ってきた障害者と社会構造や相模原障害者施設殺傷事件といったテーマについて、もう一度じっくりと考えたいという思いから旧作の要素もとり入れつつ、新たに取材とリサーチをして制作しています。
会場内にはいくつもの作品がありますが、その中の一つに外側が旧優生保護法を中心とした日本における障害者政策、内側が障害当事者運動の過去から現在に至るまで約100年の歴史が薄い布に記された年表があります。
またその年表が展示されている空間には、相模原障害者施設殺傷事件で被害に遭い、現在は支援を受けながらアパートで自立生活をする尾野一矢さんが住む部屋の再現もされています。
工藤さんは取材やリサーチの過程で、障害者が地域で自立生活を行うための制度の設立に取り組む当事者運動の存在、そしてその運動から生まれた制度を利用して現在自立生活を行う一矢さんのことを知ったことが今作を作る上での一番のキーポイントとなったと語りました。
また、年表については、内側と外側の両面が見ているうちにメビウスの輪のように入れ替わっていくような構造を持っており、鑑賞者それぞれがいろいろな方向や順番から見てほしいということもお話されていました。
他にも、作品制作を介してさまざまなことを調べること、人と関わり合うこと、そして「知る」と「わかる」の関係についてなど、自身の制作の根底にある考えや問いにも言及されました。

大久保ありさん

大久保ありさんは、自身の過去の13作品を編纂し、新たな物語を紡ぎ出す作品を展示しています。

大久保さんのお話は「ほんとうの話」と銘打たれ、「ほんとう」とは何か、という問いを参加者らに投げかけることから始まりました。
そして言葉で記述や口伝するときにその対象と自分との関係や取り巻く環境によって何かを足し引きし、真実が曖昧になることがあるのではないかという疑問、そして今作で編纂した過去の作品では「虚構」がポイントとなるため、どのようにその虚構を組み立てたのかをお話されました。
大久保さんは虚構を作り出すバリエーションについて今作で扱われている個々の作品での例を挙げながら説明しました。
例えば、《美術館の幽霊》は、ある出来事によって感情を揺さぶられたことがそのときのものの捉え方に強く影響し、想像が膨らみ虚構が生み出されたといいます。また、《妄想する》は自身の妄想に人が便乗してくることでその妄想、つまり虚構の構築が加速していったケース、《パンに石を入れた17の理由》は事実である自身の家族史の一部を改変して織り交ぜることで虚構が生み出されたケースだそうです。そして日記形式の作品である《私はこの世界を司る あなたは宇宙に存在する要素》では、虚構を作るために事実をコントロールして作りたい虚構へと向かっていったといい、作品制作において、これまでさまざまな虚構の作り方に取り組んできたことが語られました。

良知暁さん

良知暁さんは、1960年代にアメリカ、ルイジアナ州で行われた投票権をめぐる識字テストのとある一節を軸とした作品を展示しています。

良知さんは、できるだけ親密な言葉を使いたいという気持ちから、手紙形式の文章を読み上げる形で作品に関するお話をされました。
その手紙では、良知さんの今作の軸でもあり、1964年にアメリカのルイジアナ州タンギパホア群で実施されたリテラシーテストの27番目に出題された問題の一節である「Write right from the left to the right as you see it spelled here.(raɪt raɪt frəm ðə left tə ðə raɪt əz juː siː ɪt spelt hɪə.)」に自身が惹かれることに対して抱く複雑な思いや、関東大震災時朝鮮人虐殺という出来事において選別の言葉として用いられた「15円50銭」について、また時計を使った作品《15:50》、そして美術館で自身の作品を展示し、態度を共有することについてなどが語られました。
数名の詩人や研究者の言葉の引用もなされる中で、「私はどこに立っているのか」「忘れないため」「思い出すこと」といった良知さんの気持ちを表す言葉がたびたび用いられ、さまざまな文脈の間で揺れ動く心の様子が手紙の受け手である参加者らに届けられました。

トーク後半は、当日登壇された工藤さん、大久保さん、良知さんの3人が参加者からの質問に答え、展示についてより考えを深める貴重な機会となりました。

MOT2022年度インターン生 石田彩)

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