2022年03月04日(金)

「Viva Video! 久保田成子展」関連イベント「担当学芸員と巡る手話通訳を介した鑑賞会」レポート

2月6日(日)、「Viva Video! 久保田成子展」関連イベントとして、手話通訳をともなう鑑賞会が開催されました。展覧会担当学芸員が、手話通訳を介して作品解説・質疑応答を行ったギャラリートークです。
今回は「手話」を主なコミュニケーション手段とする、3名の方がご参加されました。

2021年度MOTインターン生が、手話をともなうイベントに参加して気づいたこと、感じたことを織り交ぜ、当日の様子をレポートします。

「担当学芸員と巡る手話通訳を介した鑑賞会」イベント当日の様子

―ギャラリートーク「Viva Video! 久保田成子展」―

本展では、新潟県出身の女性アーティスト久保田成子(1937-2015)の作家人生が作品・資料と共に展示されています。

今回のギャラリートークで印象的だったのは、久保田の初個展(内科画廊、1963)についての話です。
久保田が個展で展示したのは、ラブレター(に見立てた紙)を積み上げ、その山の上に彫刻を置くという、今で言うインスタレーションのような作品。鑑賞者はその山をよじ登らなければなりませんでした。
それまでのほとんどの芸術が、単に「眺める」ことを求めたのに対し、久保田は鑑賞者の直接的なアプローチを求めました。

さらに用意されたのは、英語の「インストラクション(指示書)」。それは鑑賞者が、能動的に作品と向き合うためのメッセージでした。鑑賞者の「眺める」という一方的な行為で終わらせるのではなく、見る人のアクションを引き起こすためのメッセージ。それによって、作品と鑑賞者の対話を生み出そうと、久保田は考えたのです。

「皆さんは、ジョン・レノンの<イマジン>をご存知ですか?」と聞く学芸員に、参加者は「もちろんです」と手話で答えます。
「イマジン、想像してごらん。」この言葉は人々の想像力を喚起させます。
久保田もまた作品を通じて、見る人に自ら動くこと、考えることを喚起しようとしたのです。鑑賞に自発性を引き出そうとする試みは、後年のヴィデオ彫刻の作品へと受け継がれていきます。

「Viva Video! 久保田成子展」展示風景、東京都現代美術館、2021年 撮影:森田兼次

しかし東京での初個展では、美術批評家からの反応や評価を得られず失望し、NYに渡ることを決心します。そこで、実験的な芸術家集団として知られていた「フルクサス」の活動に参加するようになるのです。

―ヴィデオ彫刻―
次に印象的だったのは、《デュシャンピアナ:マルセル・デュシャンの墓》についてのトークです。

「皆さんは《マルセル・デュシャンの墓》を前にして、作品に近づいたり覗いたり、遠ざかったりしたと思います。空間を移動しながら、鑑賞したのではないですか?」
参加者の方は「そうですね」と答えながら頷きます。

  • 久保田成子《デュシャンピアナ:マルセル・デュシャンの墓》1972-75/2019年、久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(東京都現代美術館での展示風景、2021年)撮影:森田兼次

  • 久保田成子《韓国の墓》1993年、久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(東京都現代美術館での展示風景、2021年)撮影:森田兼次

久保田は、彫刻のなかにヴィデオを組み込みました。さらに映像を投影したり、鏡に反射させたりすることで、空間そのものを作品として体感させようとしました。

ヴィデオ彫刻を鑑賞するとき、見る人は能動的に作品空間を動きまわります。そうした身体的な動きが、久保田の作品によって鑑賞者から引き出されるのです。

―ギャラリートーク、参加者の声―

ギャラリートークを終えての、参加者の声を一部紹介します。(イベント後アンケートより抜粋)
―今回の鑑賞会や久保田成子展についてのご感想をお聞かせください。
「(学芸員の)思いが込められたガイドによって […] 久保田成子の人生が、映画のように浮かび上がってきた
「学芸員の熱が手話通訳を通してこちらにも伝わってきた。[…] 背景を知ることで作者がそばにいるように感じられた」

学芸員の言葉が手話へと訳され、手話の言葉が話し言葉に訳される。
そうした対話が、丁寧に何度も繰り返されることで、時間をかけながらも互いの言葉を理解しようとするギャラリートークが、とても新鮮なものに映りました。

―手話という言語―

本イベントに参加して感じたのは、手話には空間性と身体性があるということでした。この二つは、久保田の作品においても重要なキーワードです。

手話の話し手どうし、手の動きと表情でコミュニケーションをとります。そこに対話を取り巻く温度感、盛り上がりを肌に感じることができたのは、手話という言語が空間を覆いこむ身体と表情の動きを持つからなのだと思います。

ある種のパフォーマンス・アートのように、一つ一つの動きが感情と言葉に包まれている。

これまで、話し言葉の「代わり」であると思い込んでいた「手話」は、実際には、聞こえない/聞こえにくい人のもつ、身体的で表情豊かなひとつの「言語」であるのだと感じました。

―さいごに―

美術館での手話をともなう活動が増えつつある今日でも、課題は残されているようです。

例えば、手話に対応していない美術用語があったり、美術に精通した通訳士の人手が足りていなかったり。

そうした課題に取り組むには、「ろう文化」の方たちとのコミュニケーションの機会を得ることが大切になってくるのではないでしょうか。

異なる文化や言語に生きる人たちを知り、直接的なアプローチをするには、人対人の関係性を築くことが重要なことだと感じました。

(MOT2021年度インターン生 田村万里子)

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