2015年10月07日(水)

オスカー・ニーマイヤー展 SANAA西沢立衛氏による作品解説③カノアスの邸宅

③カノアスの邸宅
※以下N:西沢立衛氏、H:長谷川祐子(当館チーフキュレーター)

H:では、こちらのカノアスの邸宅の模型ですね、カノアスの邸宅というのはリオの傾斜のある土地につくられたもので、岩が突き出ていますが、そのままの地形を活かしています。自然とどういう形で建築をダイアログさせていくか、ということにおいて良く紹介される作品でもあります。ひとつのボリュームで、変なエントランスホールがなく、部屋がありもうひとつ地下に部屋がある、という形式になっています。このカノアス邸宅について、西沢さんお話し頂けますか?

④ニーマイヤー.jpg
カノアスの邸宅模型(縮尺1/20)
"オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男"展示風景, 2015
撮影:江森康之

N:僕はこの住宅が好きです。官能的で、また暗く、影がそのまま建築になったようです。ニーマイヤーの建築はどれも楽天的ではない、ある影というか、暗さ、悲劇的なものを持っていますが、この住宅はそれを端的にしめしています。鬱蒼と茂った谷底に立つ、影の中の建築で、川が海まで流れていくその上流、山のなかですね。谷底の暗い川が遠くの海岸までいくのが見えて、はるか遠くに海が光っているのが見えます。若者たちが遊ぶビーチが、まるで幻のように感じられます。そのコントラストも建築の魅力になっていますが、この住宅は自然との関係という意味でも、おもしろいところがあります。建築は柔らかくカーブしていて、自然と融合するような有機的な感じですが、実際は谷底を塞ぐように巨大な人工地盤をつくって、平らにして、その上に立てています。僕はここを初めて訪れたときに、谷底が深く暗く、急峻で、よくここに建てたなと感心しました。力技というかなんというか、いまは人工地盤があるので、簡単に建築できるように見えるかもしれませんが、建物が立つ前にここにきて谷底だけ見たら、ほとんど崖地で、とても建築できるとは思わないような地形です。そこに強引に人工地盤をつくっています。ただ、やっていることはものすごいんですけど、出来上がったものを見ると自然との調和を感じさせます。自然との関係という意味では矛盾に満ちた建築で、それもまた、建築に不思議な奥行きを与えていると思います。この人の建築はつねに明快でシンプルですが、けっして単調ではなく、短絡的なものではなく、複雑なんです。

複雑さということでもうひとつ感じるのは、ミース・ファンデル・ローエへの敬意、敬意というよりも畏怖のようなものです。ミースへの愛、畏れが半端ではないのですが、誰が見てもミースの影響下にある建築でありながら、なぜかニーマイヤーの独創になっている、どこからどう見てもニーマイヤーでしかない建築になっているという、これは歴史というか、愛というか、そういった彼の歴史性は素晴らしいと思います。ホンマタカシさんの写真が美しいですが、遠くに見える海、人工地盤、色気、暗さ、自然との矛盾した関係、そういうようなことがよく撮られていて、素晴らしいと思います。

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