2026年03月26日(木)

アーティストの1日学校訪問(松井えり菜さん)レポート3

アーティストの1日学校訪問

【5校目】2026年2月16日(月) 江東区立砂町中学校(特別支援学級) 中学1〜3年生 23人

5校目は、特別支援学級の中学生を対象に実施しました。今回の授業タイトルは「顔三昧」。種類の異なる描画材や紙を用いて、それぞれが自由な表現で自画像を描き、最後に全員で鑑賞しました。

冒頭の松井さんの自己紹介では、今回のために持参された、松井さんの顔やウーパールーパーなどが描かれた実作品も見せていただきました。お話の中で、「自分の顔そのものを描かなくても、自分が見ている視点を『自画像』として描くようになった」という言葉が印象的でした。

次に、今回の活動内容についての説明がありました。画用紙、和紙、トレーシングペーパーの3種類の紙に、アクリル絵具やクレヨン、色鉛筆、墨汁を用いて、自画像を描いていきます。さらに、自分の顔を観察するための道具として、鏡または金属製のボウルがくじ引きによって生徒それぞれに割り当てられています。ボウルを使うときは曲面の映り込みの面白さを探しながら描いてほしいことが伝えられました。

松井さんは見本を見せながら説明を続けます。画用紙に描いた顔の上に、トレーシングペーパーに描いた別の顔を重ねると、下の顔が透けて見え、重なりによる面白い表現が生まれてきます。

説明を聞いた後は、それぞれが制作に取り組んでいきます。鏡やボウルを覗き込んで自分の姿を慎重に探ったり、ゆっくり丁寧に色をのせていったり、一人ひとりのペースで進めていきます。

  • 手の血管まで緻密に描き込む様子

  • 墨のにじみを活かして描く様子

  • 着ている服のロゴマークやファスナーまで丁寧に描かれた表現

出来上がった2枚の自画像を重ねて確認する姿も見られました。

松井さんはそれぞれの進み具合を見ながら、筆や絵具の使い方を教えたり、話しかけたりしています。先生方も声をかけながら生徒たちの制作を温かく見守っています。

制作が終わると、完成した作品を互いに鑑賞し合い、一人ひとりの表現の違いや工夫したところを皆で共有しました。
生徒たちが描いた作品をいくつかご紹介します。

左の作品は、顔だけでなく全身まで描いた自画像です。右の作品には、自分の姿のほかに、いつもお世話になっている先生方の姿や花も一緒に描かれています。

こちらは、「芸術が爆発する感じ」で描いた作品だそうです。松井さんからは、「顔や髪の毛の色などがさまざまな色でのびのびと表現されていて、絵具の重なりやにじみも面白い」とコメントがありました。

自画像を5枚、描いた生徒もいました。輪郭にこだわって描いたそうです。
松井さんからは、「5枚それぞれ画材の使い方が工夫されていて、目やまつげなど、筆のタッチまで変えながら描いているのがとてもいい」とコメントがありました。

全員の作品鑑賞が終わると、松井さんは生徒たちにこう伝えました。「今の自分だからこそ描けた一人ひとりの自画像をこれからも大切にしてほしい。自画像を描いてみることで、自分の中の隠れた感情に気づいたり、自分の気持ちを癒してくれたりもします。自分を見失いそうなときや迷ったときにぜひ描いてみてください」

最後に生徒たちから、大きな絵はどのくらい時間をかけて描いているかという質問がありました。松井さんは、2年かけて描いていた絵もあれば、1週間で描いた絵もあり、必ずしもサイズが大きいほど時間がかかる訳ではなく、描くときの状況によってかかる時間は異なるといいます。そして、「自分のためだけに使える時間が大人になるに従って少なくなってくるけれど、中学生のみんなはまだたくさんの時間があるから自分のやりたいことを探してやってほしい」とエールが贈られました。

事前の授業で生徒たちは、目や鼻、輪郭の取り方などを意識しながら、顔の描き方を練習していたそうです。今回の授業では、その学びを踏まえてよく観察しながら描く生徒の姿が見られました。また、「顔を描かなくても『自画像』を描くことができる」という松井さんの言葉があったことで、生徒たちは固定観念にとらわれることなく、自由な発想でそれぞれの「自画像」を表現していました。

6校目】2026219日(木) 墨田区立東吾嬬小学校 小学6年生 48

訪問最後となる6校目は、卒業を控えた6年生2クラスを対象に実施しました。この学校での授業タイトルは「おもいっきり自画像!」。普段の図工ではなじみのない描画材を使い、それぞれが絵具のにじみから展開する自画像制作に取り組みました。

松井さんの自己紹介では、先生との事前授業でこどもたちが鑑賞していた《イミテーションサパー》について、こどもたちの感想や質問に答えていただきました。

こどもたちの感想の中には、作家の意図や想像を超えたものもあり、作品を鑑賞する中で新たなストーリーが生まれていくことに松井さんは感心していました。

続いて、絵具のにじみの面白さを活かした自画像制作に取り組むことが伝えられました。制作に入る前に、松井さんによるデモンストレーションを行いました。透明水彩絵具のほか、普段の授業では使わない分離色の透明水彩絵具や水彩紙も使っていきます。分離色の絵具は、水に溶いて紙に塗ると複数の色が分離して現れてくる特殊な絵具です。 

他にも今回の授業のために、ミルクを原料にした絵具や蛍光色のメディウム、ゴールドのパウダーやスプレー、さまざまな形の筆やハケ、ペインティングナイフなど、松井さんが実際に使っている描画材と道具も用意してくださいました。普段は触れる機会のない材料や道具を巧みに使う姿にこどもたちは目を奪われているようでした。

説明の後はそれぞれが使いたい絵具をパレットに出して、制作開始です。
複数の色がにじみながら混じり合って不思議な色合いが出てきます。にじみの活かし方も人それぞれ。

松井さんは一生懸命制作に取り組むこどもたちに寄り添い、「自分が好きなように描いていいんだよ」「自分の気持ちが込められていればきっと感動できる絵が描けるよ」などと声をかけながら、こどもたちの背中を押します。松井さんの言葉を受けるように、それぞれが自分なりの方法で自画像を描き進めていきます。

  • 筆を2本使いで描く様子

  • 手指を使って描く様子

パレットに足りない絵具を配りながら、筆づかいを見せて、アドバイスをする場面も見られました。迷いなく筆を動かす松井さんの手元を興味津々に見つめています。

絵具以外の素材も登場しました。こちらは、キラキラのラメパウダーを画面にまぶしている様子。描き重ねたところほど、ラメがきれいに映えるそうです。

あっという間に終了の時間になり、にじみから展開させた、いろいろな表情の「自画像」が生まれました。

制作の続きは次の図工の授業でも行うことになり、最後に松井さんからは、どんどん自由に描き進めていくようアドバイスがありました。さらに、他の人の作品を見ることで、その人の考えていることを知るきっかけになるので、まわりの友達の作品をぜひ見てほしいことも伝えられました。

授業後に寄せられたこどもたちの感想を抜粋します。
・顔を描くのは得意じゃないけれど、今日やってみて新しい観点を見つけて描くことができました。
・散りばめた絵具から絵を描けるのを知らなくて、すごいと思いました。
・はじめから描くものを決めずに制作することは面白かったです。
・アドバイスをもらったり、私の絵にラメをつけてくれたりして、とても素敵な自画像になりました。
・自分の顔がなかなか描けなかったのですが、できた絵を見て、これが自分の個性なんだなと思いました。

普段の図工の授業では触れる機会のほとんどない絵具と紙を使い、にじみから自画像を描いていくのは、こどもたちにとって新鮮な体験になったことと思います。授業では、自由な表現を自分なりに探しながら、それぞれの「自画像」と向き合う姿や、友達同士で互いの絵を見合う姿が見られました。


各校の授業を通じて、松井さんの絵画にかける思いや姿勢を間近で感じ、こどもたちは既成概念にとらわれない自由な発想で絵を描く楽しさを実感できたようです。出来上がった作品からは、こどもたちの表現の幅が大きく広がっていたことが伝わってきました。また、共同制作や互いの作品を鑑賞する時間には、声を掛け合ったり、感想を言い合ったり、絵を通じた豊かなコミュニケーションも見られました。こうした作家との出会いが、普段の生活ではなかなか得られない体験となり、こどもたちの視野を広げる貴重な機会になったのではないでしょうか。(S.O)

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