2026年03月26日(木)

アーティストの1日学校訪問(松井えり菜さん)レポート2

アーティストの1日学校訪問

3校目】2026119日(月) 八丈町立三原小学校 小学56年生 13

3校目は、八丈島の小学校にて、56年生を対象に実施しました。

この学校での授業タイトルは「《ヴィーナスの誕生》多面相」。松井さんの作品のモチーフにもなっている、サンドロ・ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》の人物になりきって自分の身体をかたどりし、皆で一つの絵画制作に取り組みました。

最初に、松井さんはさまざまな顔が描かれた作品画像を見せながら、顔を描くにしても色々な表現があることを伝えました。同時期に当館コレクション展で展示されていた《イミテーションサパー》という作品を見せ、この作品の題材になっているものを尋ねると、「最後の晩餐!」とこどもたちから答えが返ってきました。

この作品は、松井さんのお子さんがままごとをして散らかした様子が《最後の晩餐》に見えたことから着想を得て描かれました。松井さんによると、自分自身を描いていなくても自分を取り巻く状況やそのときの気持ちを表現している「自画像」なのだそうです。そして、今回の授業では、皆で《ヴィーナスの誕生》を題材に、「三原小の自画像」を作ることが伝えられました。

事前にこどもたちが作った「自分の思う海の色」の絵具も使っていきます。

まずは、90×180cmの板段ボールを敷き詰めて大きな画面を作ります。こどもたちは4~5名で1グループとなり、板段ボールの画面に寝っ転がり、割り当てられた《ヴィーナスの誕生》の人物になりきって、それぞれポーズをとります。

ポーズ指導をする松井さん

最初は戸惑っていたこどもたちも次第に絵の中の人物になりきっていきます。その間、松井さんがポーズの指示や声かけをしながら、こどもたちの特徴をとらえて輪郭線を引いていきます。

輪郭線を引き終わると、今度は絵具で描き込む作業へ。

絵具を迷いなく画面にのせながら、遠慮気味のこどもたちに「どんどん塗ってね」と声をかける松井さん。その声をきっかけに「髪の毛を塗るとしたら、蛍光グリーンがいいな!」「オレの髪は金髪だ!」と、こどもたちも段々と白熱していきます。

筆を使わず、手に絵具をつけて描いたり、絵具を直接画面に出してみたり。

松井さんの姿に触発されてか、こどもたちも次第に大胆になっていきます。いつの間にか手足は絵具だらけ、汚れることにも躊躇がなくなったようです。

そして、ついに作品が完成!

昼休みを挟み、5校時は全員で出来上がった作品を鑑賞しました。それぞれのチャームポイントや工夫した点を発表しました。

「海の色をあえてあまり混ぜずに描いた」「海はいろんな色で表現した」と話す子たちに、松井さんは「八丈島の海の表情のちがいがよく表現されている」と感心していました。他にも、「人物が着ている服の花の模様まで頑張って描き込んだ」「楽しむ気持ちを忘れずに描いた」という子もいて、一人ひとりが工夫しながら制作していた様子が伝わってきました。

その様子を受けて、先生は、「みんながそれぞれ、どんなことができるか考えながら活動していたことがとてもよかった」と労いました。
松井さんから、「みんなで素晴らしい『三原小の自画像』を作ることができたと思います」と伝えられると、拍手が沸き上がりました。

いつの間にか松井さんとこどもたちの距離は縮み、最後の片付けでは、和やかな交流のひとときも生まれました。

授業後のこどもたちの感想を抜粋します。
・私はまだ美術館に行ったことがないのですごく行きたくなりました。松井さんの自画像をたくさん見たいと思いました。
・絵具で描くことが苦手だったので、綺麗に描こうと思わなくていいと言われて嬉しかったです。
・自画像は自分の顔を描かないといけないと思っていたけれど、自分の気持ちが出ていれば自画像だと初めて知りました。
・最初は筆で少しずつ描いていたけど、途中から楽しくなってきて、汚れるのがどうでもよくなりました。
・思いっきり絵の具を使って描いたのが初めてで、今回の思い出は一生の宝物になると思います。

こどもたちの感想からは、作家との出会いが刺激にあふれ、視野を大きく広げる体験であったことが窺えます。松井さんの声かけによって、身体を大きく動かして、のびのびと描くこどもたちの姿が見られました。また、筆づかいや表現の変化に伴い、絵も生き生きとした表情へと変化していく過程も印象的でした。

4校目】202626日(金) 渋谷区立千駄谷小学校 小学6年生 53

4校目は、卒業を控えた6年生2クラスを対象に実施しました。この学校での授業タイトルは「《春》多面相:春のなかに 自分をみつける」。こどもたちが、松井さんの作品のモチーフにもなっている、サンドロ・ボッティチェリの《春》に登場する人物のポーズをまねして、その輪郭をとり、グループごとに一枚の絵画を制作しました。

さっそく松井さんの自己紹介から授業がスタートしました。幼少の頃に自身の顔に似ていると言われていた、ウーパールーパーが描かれた作品画像を見せながら、この作品はウーパールーパーに自分を重ねた自画像だと説明します。

続いて《風呂上がりのプリマヴェーラ》の作品画像が映し出されると、「(ボッティチェリの)《春》みたい!」と思わず声が上がりました。

というのも、先生の指導のもと、この日の授業に向けてこどもたちはボッティチェリの《春》になぞらえ、自分たちの姿を板段ボールの上に型どりし、色を塗る作業まで進めていたからです。

松井さんより、これから《春》を題材に、皆で型どりした絵の続きを描くことが伝えられ、「今回のように50人が集まって共同制作する機会はなかなかないので、頑張って描こう」と声がかけられると、こどもたちは元気いっぱいに制作に取りかかりました。

グループごとに2つの場所に分かれて、まずは自分たちの姿を描いた板段ボールを並べます。二手に分かれて活動するため、それぞれの教室の進行状況がわかるよう、テレビモニターでオンラインにつないでいます。

最初はローラーで背景の緑を描いていきます。事前にこどもたちが作った、背景の草木を描くための、それぞれがイメージする「緑」の絵具も使っていきます。

すると、松井さんが絵具を直接画面の上に出して勢いよく駆け抜けました。その様子を見て、最初は躊躇していた子たちも大胆に絵具を使い始めます。

  • 松井さんのように絵具を直接画面にたらす様子

画面全体が勢いよく絵具で覆われていきます。

松井さんが持参した大きな筆を使ったり、足を使って描いてみたり。

画面が絵具にまみれて、事前に描いていた自分たちの姿が見えなくなってくると、「原形へ戻そう!」「絵具をまき散らすのは禁止だよ」「手と髪、人の形はこうなっているよ」「足元中心に描こう」「そっちの人は葉っぱを描いて」などと、活発に言葉を交わしながら、こどもたちの間で自然とチームワークが生まれていきます。

途中で松井さんは、一旦激しく描くのをやめて、ボッティチェリの《春》の資料もよく見ながら描くようアドバイスします。

着々と自分の持ち場を描き進めていく姿も見られました。

皆で絵具まみれになって画面いっぱいに動き回る中で、それぞれの個性が響き合い、エネルギーに満ちた作品が出来上がりました。
最後に、一つ目の教室から順番に鑑賞をしました。もう一方の教室ではタブレットで映された画面越しに、オンラインで一緒に鑑賞しています。

完成した作品の中に、バナナの姿をしたキャラクターが描かれているのを取り上げ、松井さんは、自分自身の姿が描かれていなくても、自分の好きなものや描きたいものを表現した立派な「自画像」になっていることを伝えました。さらに、「絵具をたくさん使って、みんながすごく楽しんで描いていたことが伝わってくる」とコメントがありました。

授業後のこどもたちの感想を抜粋します。
・今までやってきた中でいちばん楽しく、自由に絵を描けた。
・松井さん自身の思いからみんなの気持ちを変えるような作品を作ることがすごいと思いました。
・絵具をまき散らして、いつもはしないことができたのですごく楽しかったです。
・色々な描き方で試して、一人黙々と描くよりみんなで描いた方が楽しいことを発見できました。
・現代アートを制作する気持ちが分かったかもしれない。

千駄谷小学校では、互いに声をかけ合いながら、絵具まみれになって制作に没頭するこどもたちの姿が印象的でした。卒業を控えた6年生にとって、松井さんと出会い、仲間とともに制作したこの時間が、心に残る思い出の一つとなっていればうれしいです。(S.O)

教育普及ブログ