2026年03月26日(木)

アーティストの1日学校訪問(松井えり菜さん)レポート1

アーティストの1日学校訪問

当館の所蔵作家が都内の学校を訪問して授業を行う「アーティストの1日学校訪問」。令和7年(2025)度は、絵画をコミュニケーションツールとして捉えながら、自画像を題材にした作品を数多く制作する画家の松井えり菜さんとともに、小学校から高等学校までの計6校を訪問しました。

松井えり菜氏

今回の出張授業のテーマは、「描こう!話そう!重ねよう!みんなで作るアートなコミュニケーション!」。松井さんとの出会いを通して、さまざまな表現で絵を描く楽しさに触れ、絵を介して他者とのコミュニケーションを体験する授業です。松井さんが学校ごとに合わせた授業内容を考えてくださり、こどもたちは、友人との共同制作や、個人個人での自画像制作に取り組みました。
それでは、各校での授業の様子をレポートします。

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校目】20251127日(木) 東京都立新宿山吹高等学校 高校13年生 4人

1校目は自宅学習をメインとする通信課程の高校生を対象に実施しました。授業タイトルは「実践!アートなコミュニケーション!」。各自が描いた絵を組み合わせて、全員で一つの作品を制作しました。
最初に松井さんより、これまでに制作してきた作品のことや、画家としての20年にわたる活動の歩みをお話しいただきました。

画家になるきっかけとなった「変顔」の自画像をはじめ、描くことに自信がなくなったときに描いた作品、結婚や出産、子育ての日々を題材にした作品、コロナ禍での共同制作など、ライフステージや環境の変化とともに作品の表現も変わっていったという話が印象的でした。

そしていよいよ、作品制作へ。今回の制作では、自分一人だけで描くときとは異なる、自分と他者との作品を組み合わせたときに生まれる予想外の面白さやコミュニケーションを重視しました。そのため、シュルレアリスムの芸術家たちの遊びから生まれた共同制作の手法「優美な死骸」を取り入れ、人体をテーマに制作を行いました。複数人が身体の各部位を分担し、互いにどの部位が描かれているか知らない状態で制作を進め、最後にそれらを組み合わせて一つの身体を完成させます。

まずは描画材と、描く身体の部位が書かれたくじを順番に引いていきます。
中には“どでかい筆”を引いた生徒も

他にもガラスペンや太い油性ペン、ローラーと、それぞれが引いた道具を使って描いていきます。
松井さんが生徒たちに積極的に声をかけながら、絵具の溶き具合や紙の上でのにじませ方などを教える場面もありました。

勢いよく描いたり、慎重に下絵を描いたり、じっくりとアイディアを練ったりしながら、それぞれのペースで制作を進めていきます。

  • 描画材:どでかい筆、身体の部位:右手

  • 描画材:ガラスペン、身体の部位:左手

途中で、他の描画材や素材を使ってもいいことが伝えられると、紙を破いてちぎり絵のように表現する生徒も出てきました。

制作が終わり、教室の床にそれぞれが仕上げた身体の部位を並べていくと、一つの人体が出来上がりました。一人ずつどういうことをイメージして描いたか、発表しました。

ガラスペンで顔を描いた生徒は、顔の向きを考えて、自分の好きな斜めからの顔を表現しました。下瞼の表現も工夫されています。

ガラスペンで左手を描いた生徒は、描き進めるうちに手をヘビにしたい!と思ったそうです。よく見ると、人差し指の先は舌を出すヘビになっています。

太い油性ペンで左脚を描いた生徒は、マジックならではのタッチを活かして表現しました。さらに、筆を使って影を入れたことで脚の形が際立って見えてきます。

“どでかい筆”で右手を制作した生徒は、3枚の右手を完成させました。写真左の手は、「手」という漢字から膨らませたイメージを、中央の手は、筆を持つ自身の右手を表現しています。右の手は、使いきれなかった大きい紙をちぎって、“どでかい筆”に浸した水を糊代わりにして貼っています。このように、くじで引いた条件を自分なりに解釈した、さまざまな「手」の表現が生まれました。

3つの右手をどういう風につなげたらよいかを皆で考えていると、「ちぎり絵の手を翼にしてみたらどうか?」というアイディアが出ました。右肩あたりにそれを配置してみると・・・

描いた人は違うのに、身体の部位が自然につながり、一人の人物に見えてきました。顔の表情や左手のヘビが指し示す方向が意味ありげで、その様子から物語が想像できそうです。共同制作では自分の考えとは意図しないところで新たな物語が生まれてくることが面白いと松井さんはいいます。さらに、一人ひとりの描画材や部位の捉え方がとてもよかったことも伝えられました。

授業後の生徒たちの感想を抜粋します。
・松井さんご自身の経験と作品との関係性のお話がとても印象に残りました。
・自分で作品制作をすることはあっても、そのプレゼンを誰かにすることはなかなかないので良い機会になりました。
・松井さんが「描き続ける」姿勢を貫いていることを目の前で感じ、芸術家はこうした環境や信念から育まれるのだと実感しました。

松井さんが始終生徒たちと同じ目線に立って話してくださったこともあり、終了後には生徒たちから進路の相談を受ける場面もありました。また、普段はオンライン授業のため、対面で会う機会の少ない生徒同士が交流する姿も見られ、「アートなコミュニケーション」が生まれていたように感じられました。

2校目】2025124日(木) 東京都立清瀬特別支援学校 中学2年生 27人

訪問2校目は、特別支援学校の中学生を対象に実施しました。授業タイトルは「カサネルアート 清瀬エディション」。生徒一人ひとりが制作した作品を教室の空間に重ね合わせて展示し、最後に皆で鑑賞しました。

今回はなんと、松井さんが持ってきてくださった巨大なウーパールーパーのバルーンが登場!教室に入ってきた生徒たちは、待ち構えているウーパールーパーを見て、口々に歓声を上げていました。

生徒たちの元気いっぱいの挨拶で授業がスタートし、松井さんが反応を見ながら話しかけていきます。
変顔が描かれた作品が映し出されると、「面白いね〜!」と声を上げる生徒や、中には立ち上がって見る生徒も。変顔の作品はどうやら彼らの心をすっかり掴んだようです。

松井さんの自己紹介が終わると、これからさまざまな材料を用いて、皆でコミュニケーションを取りながら作品を作ることが伝えられました。出来上がったそれぞれの作品は松井さんがフレームにどんどん重ねて貼って展示していきます。

使う素材ごとに、いくつかの場所に分かれて作品作りへ取りかかります。透明ラミネートフィルムに、ポスターカラーやマジックで描いたり、好きな形に切った色紙を挟んでパウチしたりします。

こちらの生徒は、松井さんが持参したウーパールーパー型の定規を使って描き始めています。先生が着けているエプロンや自分のアームカバーの特徴を捉えて、先生と自分をウーパールーパーの姿にして描きました。

ちぎった水色とピンクのお花紙をラミネートフィルムに挟んで制作する生徒もいます。

他にも絵具で勢いよく塗ったり、円形にくり抜かれた木材を使って丸を描いたり。

生徒たちはうれしそうに、松井さんのところに出来た作品を持っていきます。松井さんは作品を飾りたい場所を尋ねてフレームに貼り、着々と作品を展示していきます。

ところどころにカラーフィルムのテープや、松井さんが作ってきてくださったアクリル製のウーパールーパーたちも紛れ込みます。

全て貼り終えて完成が伝えられると、生徒たちは拍手をしたり、歓声を上げたりして、思い思いに喜びを表現しました。

生徒たちと松井さんのコラボレーションによって、皆で作ったたくさんの作品が重なり合い、教室の空間いっぱいに広がる迫力ある作品が完成しました。最後に全員で鑑賞し、作品と一緒に記念撮影もしました。

先生方からの感想を抜粋します。
・私が担当しているクラスの生徒は言葉がなくなるほど集中して作品作りに取り組んでいました。
・松井さんと生徒たちとの会話のやりとりを自分の授業に取り入れていきたいと思いました。
・すごく楽しかったようで、家に帰ってから保護者の方にお話をしてくれました。
・「楽しかった」「アーティストが面白かった」などと、クラスに戻ってから感想を言う生徒もいました。とても表情がよく、出来上がった作品を自信満々に提出している様子がありました。

生徒たちの表現の豊かさに驚かされるとともに、自分の好きな色や描きたいものへの思いを込め、一生懸命に制作に取り組む姿が印象的でした。松井さんは一人ひとりに寄り添った声かけで授業を楽しく盛り上げ、先生方も細やかなサポートをしてくださり、教室全体が温かい雰囲気に包まれていました。(S.O)

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