2026年03月13日(金)

「所蔵作家が語るコレクション①
 ―ものごとの原因と結果のおかしみ」

MOT美術館講座

64MOT美術館講座「所蔵作家が語るコレクション」では、当館のコレクションに焦点を当て、「開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025」(202582日~1124日)の会期中に、同展で展示された作品や、屋外に設置された作品を手がけた作家たちによるトークを全3回のシリーズで開催しました。第一線で活躍する所蔵作家たちの声を直接聴くことで、当館のコレクションや現代美術への理解を深める機会となりました。
また、情報保障の一環として手話通訳をつけ、補聴援助システム[ロジャー]の貸出しも行いました。

シリーズ1回目は、日常のささやかな現象を取り入れた動きのある作品と、切手や博物図鑑などを組み合わせた繊細なコラージュ作品を手がける2人組のアートユニット、片岡純也さん+岩竹理恵さんを講師に迎えました。比較的混雑が少ないコレクション展のみの開催時期だったため、エントランスホールに会場を設けたことで、偶然講座を知った来場者も含め、多くの方に参加いただくことができました。
MOTコレクション展では、お二人の、電球や送風機を用いた立体作品《回る電球 #4 霰》や、風景と人体図などの切り抜きから、類推や連想を重ねてコラージュした平面作品《内包される風景》などを展示していました。

今回のトークテーマは「ものごとの原因と結果のおかしみ」。岩竹さんによると、物に力が加わると、物の状態が変わる。物が動いたり、隣り合う組み合わせによって、その物に対するイメージや意識が変化することがある。それを「おかしみ」と捉えて、そこから作品の着想を得ているそうです。本講座では、そういった「おかしみ」をテーマに、展示中の所蔵作品や普段の制作に関して、お二人に質問しながらトークを展開しました。

最初に、片岡さんよりキネティックな動きを取り入れた作品について解説していただきました。《回る電球 #4 霰》は、小さな送風機からの風によって、電球がずっと回り続ける作品です。

片岡純也+岩竹理恵《回る電球 #4 霰》2019

ある日、部屋の電球を取り替えてテーブルに置いたときに、その電球がくるっと回る様子を見て思いついたそうです。このように日常生活の中で、面白い!と感じた動きを捉えて、作品に取り入れていくことがよくあるといいます。

地球儀の上を台風が動き回る《砂鉄による台風の模倣》は、滞在制作で台湾へ向かう飛行機の機内で、接近中の台風の天気図を見て思いついた作品です。

  • 片岡純也+岩竹理恵《砂鉄による台風の模倣》2020

お二人は普段より身のまわりにある動きの面白いものを観察し、「観察ノート」という動画で記録しています。それが作品の着想源になっていることもたびたびあるそうです。だからこそ、キネティック作品は、意外なイメージや素材の組み合わせであっても、活き活きとした自然な動きを捉えているのかもしれません。

続いて、岩竹さんより、版画作品について解説していただきました。
《室内画37-配置される山と消失点》は、茶道具に関する古い書物に、100年ほど前の教科書の切り抜きをコラージュして版画にした作品、《室内画41-配置される円と回転図》は、円と回転する物や様子の切り抜きをコラージュして版画にした作品です。

片岡純也+岩竹理恵《室内画37-配置される山と消失点》2018

片岡純也+岩竹理恵《室内画41-配置される円と回転図》2018

岩竹さんが関心を寄せているのは、絵画における奥行きです。斜めの線が一本あるだけで、私たちはそれを空間の奥行きとして読み取ってしまう、その自動的な認識に気づいたときに生まれる揺らぎにおかしみを感じるといいます。
特に印象的だったのは、コラージュの土台となる茶室や茶道具のパースに合わせ、空間がねじれない位置に切り抜きを貼ろうとすると、配置する場所が自ずと定まっていくという点です。コラージュする場所を慎重に考えて決めるというよりも、物と物との関係が成立する位置へと、自然に導かれていくのだそうです。

《室内画37-配置される山と消失点》について解説する岩竹さん

《内包される風景》は、印刷物の図版や切手を切り貼りして「循環図」を表現したコラージュ作品です。

片岡純也+岩竹理恵《内包される風景》2013-2020 撮影:木奥惠三

循環図では、人体や魚の解剖図などの切り抜きを貼り合わせて、木・火・土・金・水の関係が景色として表現されています。筋繊維の線は風景の稜線へ、血管は水脈に読み替えられ、切手の風景や解剖図の断片が相互に連想を重ねながら、画面の中で循環しています。
岩竹さん曰く、解剖図に描かれた線(図と注釈を結ぶ線)は、物と物を分ける境界であると同時に、見る人が現実からイメージの世界へ入り込むための手がかりにもなっているそうです。つまり、この線は時空間を自然につないだり切り替えたりする役割を果たしています。

  • 《内包される風景》(部分):作品中の直線は解剖図に描かれた線(図と注釈を結ぶ線)とそれをさらに延長した線

一見しただけではそこに込められた意味に気づけなかった版画作品やコラージュ作品も、連想を通じたさまざまな物語や仕掛けがあることが理解できました。

また、お二人がつくばにある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究者と交流する中で、作品制作で何に取り組んでいたかや、視点を変えて捉えることができたという話もとても興味深かったです。これまで手探りで制作してきたキネティック作品は、実は「物がそれぞれに持つ動きのリズム」や「固有の振る舞い」を探していたのだと気づいたそうです。類似している形や線を手がかりに断片をつなげるコラージュは、私たちの認識の中に潜む共通の枠組みを探す試みでもあります。作品は、私たちが共有している物理世界の構造を、別の角度から照らしています。

バネの動きは数式で導き出すことができると語る片岡さん

最後に、お二人の作品は互いに影響し合っているのかを伺ってみました。
片岡さんは、岩竹さんのコラージュ作品を見て、イメージとイメージのスムーズなつなぎ方や、物と物をつなげるための素材というものを意識するようになったそうです。作品を展示する際には、組み合わせによって生じる関係の変化に意識が向けられています。岩竹さんによると、「組み合わせることで単体とは異なる効果や奥行きが生まれる」とのことです。

講座後の参加者からのアンケートでは、「作品だけではなく、作家の考え方、生活の中の眼差しを知ることができた」「講座のあと実際に作品を鑑賞し、作品の世界に入り込むような感覚が生まれて面白かった」「お二人の人となりや、日々のこと、私たちの知覚や歴史、空間のことといった、様々な考えに触れることができ、大変有意義だった」といった感想が寄せられました。

お二人からお話を伺う中で、普段は見過ごしてしまいがちな、日常の何気ない出来事を独自の視点で捉え、作品へと昇華していることがよく理解できました。互いに影響し合いながら、これからどのような作品を制作されていくのか、今後の展開がますます楽しみです。(S.O)

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