2026年01月15日(木)

アーティストの一日館内授業②
「木のかたまりから何かを彫りだそう」

ワークショップ

◆棚田康司氏 ワークショップ記録動画


アーティストの一日館内授業の第2弾は2017年度の「アーティストの一日学校訪問」を担当した彫刻家の棚田康司さんです。

棚田康司氏

棚田康司氏

2017年度に実施した棚田さんの学校訪問授業では、教員との事前打合せで、対象者や人数、規模、そして「どのような体験につなげたいか」といった点をヒアリングしたうえで、内容を構築していきました。今回のワークショップ「木のかたまりから何かを彫りだそう」は、2017年度に盲学校で行った授業をベースにしたプログラムです。
一人ずつ用意された直方体のクスノキ(15×15×30cm)に向き合い、木の手触りを感じながら、ノミやツチ、ノコギリといった道具を用いて思いが向くままに形を彫り出していきますが、道具を使うことが難しい場合は、棚田さんや彫刻家のアシスタントの方々が“道具”となって、参加者の具体的な指示をもとにノミやツチを振い、形作りをサポートするという内容です。

木の香りやノミとツチを振う音、木の手触りなど、視覚障害の有無にかかわらず五感いっぱいに味わえる本ワークショップには、全盲の方1名を含む7名が参加しました。(実施日時 9月27日(土)133017:00

  • くじ引きで引き当てた木を使います

    くじ引きで引き当てた木を使います

  • 制作前にじっくりと木と向き合う時間

    制作前にじっくりと木と向き合う時間

受付を済ませ、作業スペースにつくと、くじ引きをして今日使うクスノキを決めます。
引き当てたクスノキが目の前に置かれ、木と向き合う静かな時間がスタート。

写真を見せながら棚田さんの作品紹介

棚田さんによる作品紹介

  • 棚田さんが実物の作品を紹介している様子

  • 特別に触っても良い作品も持参いただきました

冒頭に棚田さんによる作品紹介が行われ、1本の木から作品を彫り出す「一木造り」の技法や発想の源に関する話に加え、作品に触らせていただける時間も設けられました。

制作が始まると、紙にアイデアを書く人もいれば、木に直接下書きをする人も。
今回は棚田さんのほかに、彫刻家の方が2名来てくださり、彫りたい形によって木目の向きを考えることや大きく形を切り出すためにはどこからノコギリを入れるかといったアドバイスを受けながら制作は進行していきました。

  • 形作るためのアドバイスをしている様子

  • 完成形をイメージしながら下絵を描きます

  • 木のかたまりにノミを打ち込んでいる様子

  • 木のかたまりをノコギリで切っている様子

クスノキにノコギリやノミが入り始めると、スタジオ全体に清涼感のある香りが広がります。初めてノミやツチを使う方も多くいましたが、皆さん驚くほどの集中力で制作に没頭していました。

スタジオ中にクスノキの香りが広がります

スタジオ中にクスノキの香りが広がります

  • ここぞというときはプロの出番。棚田さんがノミとツチで彫っている姿

  • アシスタントの彫刻家が参加者の作品を彫っている姿

ここぞという場面では、棚田さんを始めとするプロの手を借りながら、少しずつ木のかたまりが形を変えていきます。

全盲の方が、ノミとツチで木を彫っている様子

全盲の参加者の方は、「こんな形にしたい」という具体的なイメージを伝え、彫刻家のサポートを受けつつ、ご自身でもノコギリやノミを振るって制作されていました。

制作時間の半分を過ぎたあたりから、だんだんと作品の姿が見えてきます。

  • 作品の姿が現れてきた。胸像のように見える。

  • 木のかたまりの一角を丸く彫り込んでいる様子

4時間の制作時間はあっという間に過ぎ、最後に講堂へ移動して、作品鑑賞と一人ずつ発表を行いました。

講堂に移動して作品発表

講堂に移動して作品発表

木の木目が印象的な胸像

模様が入った木を使うことになったため、その模様の印象を生かして、“どんなことを考えているかわからない表情”を作ったという作品。彫り進めながら少しずつ形を決めていったそうです。

  • 作品発表する参加者とその言葉を聞く棚田さん

  • 全盲の参加者の方が作られた作品

    全盲の参加者の方が作られた作品

全盲の参加者の方が制作された、曲面を意識した本作については、「自身でやってみることで、曲面を作る難しさを実感した」との感想が述べられました。
棚田さんからは「作ろうとするもののイメージを、指という視線を通して見ていた。彫刻は『触覚の芸術』とも言われており、改めて触るという行為が“彫刻の原点”でもあるのだと考える機会になった。僕自身にとっても勉強になりました」といったコメントがありました。

  • 別の角度は直方体の木のかたまりですが、向きを変えると丸い形が連なっているという作品

  • ムチムチっとした様子を表した作品

最後に作品を自由に見合う時間を設けました

作品を自由に見合う時間も

一人ずつ作品発表を行った後、それぞれの作品を自由に鑑賞する時間を設けました。
同じ大きさの木のかたまりから生まれた作品は、どれも表情が異なり、参加者それぞれが木と向き合った時間や思考の積み重ねが形となって表れていました。

参加者からは、
・予想していたよりもかなり大きな木で、制作の満足度が高かった。
・ノミで彫り出した木くずが飛んでくる臨場感や、木の香り、ツチの音など創作空間に浸れる時間で満足度が高かった。
・大きな木材を扱えたり、ノミなどの自分個人ではなかなか使う機会のない道具に触れられたことが、とても良い体験になった。
といった感想が寄せられ、木と向き合う豊かな時間を過ごした様子がうかがえました。

木彫は、粘土のように素材を足していく造形とは異なり、木を削って余分な部分を取り除きながら形を見つけていく“引き算”の芸術です。目の前にある木のかたまりと向き合い、手を動かしながら形を見いだしていった作品は、どれもオリジナリティに富んでいました。ノミやツチといった使い慣れない道具を用いながら、木の手触りや香り、削る音を感じながら制作する体験は、五感で素材と向き合う新鮮なひとときとなったのではないでしょうか。(A.T)

写真撮影:冨田了平

※全4回をまとめた記録集はデータでご覧いただけます。
 ワークショップ記録集.pdf

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