オンラインでつながる美術館
今回は、2025年秋に実施した墨東特別支援学校の病弱教育部門いるか分教室と、病院訪問つばさ学級での授業の様子をお伝えします。
まずは、10月2日(木)に実施した、病院内に設置されたいるか分教室の皆さんの様子から。
当日の体調を受けて、病院内の分教室からのオンライン参加と現地参加とに分かれての鑑賞となりました。平日の午前中とあって、コレクション展示室はまるで貸し切りのようでした。
コレクション展示室1Fにあるアルナルド・ポモドーロ《太陽のジャイロスコープ》は、現地組もオンライン組もみんなそろって鑑賞しました。
本作は、作品の周囲360度、好きな場所から見ることができます。近づいたり、離れたり、目線の高さを変えたりしながら、発見したことや想像したことを話してもらいました。休憩をはさみつつ鑑賞した後は、対面組とオンライン組に緩やかに分かれ、それぞれのペースを大事にしながら展示室をめぐっていきました。
3F最後の展示室では、LEDの1から9までの数字が、それぞれ異なるスピードでカウントが上がっていく宮島達男による作品、《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》を鑑賞しました。本作の展示空間に立ち入った際に「この作品知っている!」という声が。
実は、コロナ禍であった2022~23年にかけて、特別版としてオンラインで実施した自分を“数字”で表す授業に参加してくれていた生徒さんでした。
数年を経ての再会です。現地で作品を目の当たりにした生徒さんに感想を聞くと「オンラインで見た時よりも大きい!」との声がありました。
人が多い場所では感染症の心配もありますが、天井が高くパーソナルスペースも確保しやすい広々とした当館の展示室は、安心して過ごせる理由の一つになるようです。それぞれのペースで展示室お散歩するようにめぐりながら、先生や保護者の方も交えてみんなで美術館を楽しみました。 (A.T)
続いて、10月30日(木)に実施した病院訪問つばさ学級のみなさんとのオンライン授業の様子をお伝えします。
オンラインを介して1つの作品を鑑賞し、そこから着想を得て作品制作する授業を実施しました。制作のテーマは『「大地」をテーマに組み替え絵画をつくろう』というもの。
今回の授業は、小学2年生から中学1年生までの4名が参加してくれました。授業が始まり、作品が展示されているコレクション展示室に向かうため、さっそく館内を進んでいきます。その際、実際に美術館に遊びに来ているような感覚を味わってもらえるように、展示室までの道のりをスライドを使って簡単にご紹介しました。その中で「エントランスから続く長い廊下はどのくらいの長さでしょうか?」「館内にあるレストランで食べられるのはどっち?」などのクイズが美術館スタッフから出題され、子どもたちは、事前に用意されたA/Bカードを各々のカメラに映して答えてくれました。
クイズを楽しみつつ、どんどん進んで行くと、コレクション展示室前に到着しました。ここからはスライドではなく、展示室前にいるスタッフのカメラに切り替わります。
展示室の入り口を進み、画面に映し出されたのは、とても大きな絵画作品。作品の全体像を確認するために、まずは離れた位置から眺めてみます。作品から離れて遠くから全体をみると、十字架のような形をしていることが分かりました。「色味は茶色っぽい?」そんな会話がスタッフから聞こえてきます。今度は細かい部分を見るために、作品にゆっくり近づいていきます。近くで見ると茶色以外にも、橙色や黄土色なども見えてきました。描かれているものに注目すると、不思議な動物や植物のようなものがたくさん描かれていました。その他に、女の子のような人物や小さな人間のようなものもいました。
オンライン授業での様子
女の子のような人物や、不思議ないきものたち
この作品は、淺井裕介さんの《泥絵・素足の大地》で、16枚のパネルから構成されていて、パネルの位置は組み替えることができます。当日、鑑賞した際は十字に配置されていましたが、前会期では長方形に配置されていました。描かれているものにもう一度着目すると、表面が少し盛り上がっていたり、ざらざらしていることに気がつきました。実はこの作品は、淺井さんが各地で採取してきた土に水を混ぜて描かれています。不思議な動物や植物、そして土。今回はこの《泥絵・素足の大地》のように「大地」をテーマに、組み替えられる絵画を制作します。
制作の際に使ったものは、11個のパーツにカットされた茶色系のボード紙と、様々な種類のカラーペンや色鉛筆などです。これらのキットは、事前に児童・生徒たちのもとへ届けたうえで当日を迎えました。
準備ができ、美術館スタッフと先生から説明を受けると、いよいよ制作スタート!すぐにペンが走った人もいれば「大地」というテーマにじっくり向き合った人もいたようです。授業内で制作の途中経過を発表してくれた作品をご紹介します。
こちらは「大地」から「クマ」を連想し、ボードいっぱいにクマを描いた作品です。さらに、クマから木の実も連想したので、木の実も描いたと教えてくれました。
続いて、こちらはオレンジやピンクなど、明るい色が印象的な作品です。描き始める時は、何を描いたら良いかわからなかったけれど、先生から「絵でもいいし、線でも何でもいいんだよ」と声をかけられ、特定のテーマを決めることなく自由に描いた作品だそうです。
児童・生徒のみなさんは、授業が終わった後も制作を続け、完成した作品は、都立墨東特別支援学校で開催された墨東祭で展示されました。
墨東祭の様子
墨東祭での展示の様子です。絵を組み替える前と、その後が分かるように展示されていました。
こちらは《海》と題された作品。青い海と、ヒトデがいる黄色い砂浜でしょうか。画面いっぱいに色が塗ってあり、見ごたえ抜群!組み替えた後は「エー」と書いてあるようにも見えてきました。
こちらは、ぱっちり開いた目が特徴的な《クマ》という作品。位置を組み替えたあとも、大きな目や、ぺろりと伸びる舌から、どこか可愛らしい印象を受けました。
授業内で経過発表してくれた二人の作品も展示されていました。授業で見た時とは異なる組み替え方になっていて、クマの体がパネルの上で新しいつながり方をしていたり、球体や線がさらに躍動感あふれるものになっていました。
授業に参加してくれた児童・生徒のみなさんの作品を墨東祭で実際に見て、先生方から授業中の様子やみなさんの反応をお伺いした中で、授業で行った鑑賞や制作を楽しんでもらえことを感じ、嬉しく思いました。
今回のようなオンラインを介した取り組みでは、電波の状況に左右されることも多く、また、直接参加者の反応をうかがえない点で、一方通行なコミュニケーションになっていないかなと省みることもあります。しかし、現地から遠く離れた場所にいる人と美術をつなぐことができるという点で、非常に重要な取り組みであると感じています。今後も、事前にできる準備や検証を重ね、美術に親しんでいただける機会や場の創造に、力を入れていきたいです。(R.T)
