さわって、みつける 東京都現代美術館
常日頃より、館内で迷われている来館者の方をみかけるたびに、「もっとわかりやすく美術館内の位置関係を伝える方法があるのではないか」と感じていました。
東京都現代美術館では、2019年のリニューアル・オープン以降、バリアフリーやアクセシビリティ向上を目指して、さまざまな取り組みを行っています。今回は2025年3月に完成した「触察模型」についてご紹介したいと思います。
当館には、企画展示室やコレクション展示室、講堂をはじめとする教育普及関連施設、美術図書室、レストラン、カフェなど様々な施設があります。同じフロアでも場所ごとに棟が分かれており、来館者の方が迷われる場面も少なくありません。
館内各所にはマップ付きの案内板を設置し、視覚障害のある方にはインフォメーションで触知案内図をご用意していますが、平面図だけで館内の複雑な位置関係を把握することは、なかなかに大変です。
そこで、視覚障害の有無にかかわらず、当館の複雑な建築構造を直感的に理解でき、館内での過ごし方のきっかけとなるような模型を作成したいと考えました。模型の製作にあたっては、当館のリニューアル時にサイン計画に携わったデザイナーの山口萌子さんを始めとする日本デザインセンターのチームのみなさん、そして視覚障害のある研究者・半田こづえさんに計画段階から参画していただきました。美術館スタッフを交え、打合せや検証を重ねながら、構想を形にしていきました。
2024年6月、3者による初回の打合せでは、館内を実際に歩くところからスタート。
「美術館のエントランスは、三角形を組み合わせたトラス構造になっていて、ギザギザした三角形が印象的です」「あんまり知られていないけど、水と石のプロムナードは静かでお気に入りの場所なんです」そんな会話を交わしながら、改めて“現美”がどんな場所なのかを確認していきました。
館内をみんなで歩いて回りました
インフォメーションに設置している館内触知案内図
当館は、地下2階から地上3階にわたる構造で、たとえば、企画展示室と講堂は同じ地下2階に位置していますが、棟が異なるため、地下から直接行き来することはできず、1階の長いエントランスを経由する必要があります。また、企画展示室は地下2階・1階・3階の3フロアにわたる一方、コレクション展示室は1階と3階の2フロア構成です。
さらに、木場公園に面した公園口には、地下2階へと向かうなだらかなスロープがあり、そこからも館内にアクセスすることができます。こうした複雑な構造のなかで、「現代美術館の何を、どのように伝えるか」という課題をデザインチームの皆さんが丁寧に整理していきました。
模型の方向性を検討する打合せでは、平面的なフロアマップをもとに、その場で立体的なモックアップが製作されていきました。立体が立ち上がってくると、実際の空間が想像しやすくなってきます。
サイズ感などを触りながら確認。写真左は半田こづえ氏、右はデザイナーの山口萌子氏
みんなで見たり触ったりして位置関係やサイズ感など意見交換していきました。
プランが固まると、模型制作を担当してくださる会社の方々も加わり、その後、何度も打合せと検証を重ねていきました。
そして2025年2月、完成に向けた最終段階の打合せでは、実物大サイズのモックアップが用意され、子どもや車椅子を利用される方でもアクセスしやすい高さやサイズか、角の丸みの具合、点字の内容などを細かく確認していきました。
模型の側面に付ける点字は、模型に相対して手を伸ばして触ったときに認識しやすいよう、あえて天地を逆にしています。
構想から約10ヵ月を経て、2025年3月下旬、「さわる/みつけるMOT」(英語名:MOT Touchscape)が完成!
撮影:冨田了平
模型のベースには、館内サインにも使われているやさしい色味の合板を使用し、建物部分はひんやりとした質感のコーリアン素材(人工大理石)を採用しています。なめらかな手触りが心地よい模型が仕上がりました。棟ごとに異なる色を用い、色覚障害のある方にも識別しやすい配色としています。
美術館を楽しむためのキーワード「きっかけコピー」
模型には、点字と墨字の両方を併記していますが、あえて点字のみ、墨字のみで表記しているか箇所もあります。これは、美術館を楽しむための「きっかけコピー」です。
たとえば、(点字)「外のベンチでひと休み」、(墨字)「足音が響く展示室の大空間」、(点字)「外にも作品があります」、(墨字)「国内外の現代美術がここに」など、あえて情報を分けることで、点字を読む方と墨字を読む方が、模型を介してコミュニケーションをとることを意図しています。
インフォメーション横に設置してから約9ヶ月が経ちましたが、多くの方がこの模型の前で足を止めている姿をみかけます。美術館全体を把握するため、これから向かう場所を確認するためなど、小さなお子様連れの方や海外からの旅行客の方、視覚障害の有無にかかわらず、幅広い来館者の皆さまにご利用いただいています。
ご来館の際には、ぜひこちらの触察模型に触れながら、美術館での過ごし方を思い描いてみてください。(A.T)
インフォメーション脇に設置された触察模型


