赤ちゃんとともに楽しむ《太陽のジャイロスコープ》
赤ちゃんと一緒に参加できるプログラムとして、「ベビーカークルーズ みよう!つくろう!まわる!?彫刻」を実施しました。(2024年9月10日(火)1回目 10:30~12:00、2回目 13:30~15:00)
館内ではベビーカーでいらっしゃる方をしばしば見かけますが、展示室に赤ちゃんと入る方をあまり多くは見かけません。保護者の方には赤ちゃんと一緒に展示室で鑑賞を楽しむ体験を、赤ちゃんには作品や人、空間などの「初めての世界」に出会う体験をしてほしいと思い、今回は保護者と赤ちゃんが一緒に参加できる形のプログラムを目指しました。そしてこれを機に、保護者の方には赤ちゃん連れでも美術館や展示室を安心して利用できることを知ってもらいたいという思いもありました。
おかげさまで定員を超える応募があり、ベビーカーで参加できるプログラムの需要の高さがうかがえました。当日は、1回目5組11名、2回目5組11名、合計10組22名の方(そのうち、赤ちゃんは3カ月~1歳3カ月)にご参加いただきました。
本プログラムでは、皆でコレクション展1階にあるアルナルド・ポモドーロの《太陽のジャイロスコープ》を鑑賞してから、その体験をもとに、エントランスホールでこの作品の構造を参考にしたモビールづくりを行いました。
最初に、ベビーカークルーズの出発地点であるエントランスホールで、保護者の方には見通しが立つように、プログラム全体の流れを話してからコレクション展示室へ向かいました。
展示室へ入ると、ひときわ存在感のある《太陽のジャイロスコープ》を皆で鑑賞していきます。作品の周囲を回って、見る位置や角度を変えながら、まずは親子で自由に見てもらいました。ベビーカーの傍にかがんで赤ちゃんと同じ目線で作品を見上げたり、赤ちゃんに話しかけたりする保護者の姿も見られました。赤ちゃんたちは、不思議そうに作品のどこか一点を見つめたり、まわりをキョロキョロ見回したり、ベビーカーの中ですやすや眠っていたりと、さまざまな反応を示していました。
思い思いに作品を見てから、気づいたことや感想を出し合いました。「魚の骨」「何かの骨組み」「ピアノの鍵盤」「紙をビリビリ破いたようなところがある」「球体の裏側には三角形のピラミッドの形が付いている」「細い線の入り組んだところがミトコンドリアのようにも見えるし、杭のような形が建築物にも見えてきた」「赤ちゃんと同じ目線でしゃがんで見るのが新鮮で、作品がいつも以上に大きく見えた」という意見がありました。「半円が2つあって、それらがひとつの円の中に収まりそう。360度回って見ないと気づかなかった」と、作品全体の形や構造に注目した参加者も。
鑑賞した後はエントランスホールへ戻り、今度はモビールづくりです。このモビールは《太陽のジャイロスコープ》のように、上下についた2つの半円の中心に軸(モビールでは糸)を通して回すことができる構造になっています。展示室での鑑賞体験をもとに、色紙や片面段ボール、カラーマジックなどを使って、モビールにそれぞれで表していきます。
赤ちゃんの喃語や泣き声がエントランスホールに時々響きます。保護者のみなさんはそばで優しく赤ちゃんを見守りながら、あるいは抱き抱えながら、制作を進めていきます。中には保護者が作っているモビールをじっと見つめる子や気になって手に取りたがる子もいます。いつものエントランスホールとは少し違う、親子の温かい時間が流れていました。
作り終えた後は、保護者のみなさんにどんなイメージで作ったかを聞きながら、互いのモビールを鑑賞し合う時間をとりました。完成したモビールは、展示室で鑑賞して印象に残ったことを表したもの、気づいたことからイメージを膨らませたもの、親子で協力して創り上げたものなどがありました。モビールのベースの形や構造は一緒ですが、作った人の視点やイメージ、使った材料の違いで、さまざまなモビールが出来上がりました。
最後に保護者の方からプログラムの感想をお聞きしました。「一人だけで見るより、みんなで一緒に見ることができてよかった」「こどもと一緒に鑑賞することができて幸せな気持ちになった」「いつかこどもが成長した時に、自分が小さい頃に見た作品はこんな作品だったのかな?と、このモビールを見て思い出してもらえたらいい」「久しぶりにひとつのことに没頭することができ、リフレッシュになった」
親子での大切な思い出ができたことに加え、保護者の方にとって気分転換にもなったことなどがうかがえました。また、「今回のイベントをきっかけに気軽な気持ちで美術館に来てみようと思えた」という声もありました。
展示室に入っても大丈夫かな?突然こどもが泣き出して迷惑ではないかな?そのような保護者の声を子育て中の友人から聞いたり、新聞やネットの記事、アンケートなどで目にしたりすることがあります。今回のベビーカークルーズのように、展示室で赤ちゃんとともに作品鑑賞を楽しむ光景が“いつもの日常”になっていくことを願い、そのためにできることを考えていきたいと思います。(S.O)