2023年02月01日(水)

「見る」以外の「みかた」

ミュージアム・スクール

学校団体を対象とし、こどもたちとのコミュニケーションを交えて主体的な作品鑑賞体験を促すミュージアム・スクール。
今回は、東京都立文京盲学校の高校3年生11人が来館しました。(2022119日)
3グループに分かれ、MOTコレクション展や、野外彫刻作品を巡りました。
当日の様子をインターンの早川がお伝えします。

大まかな作品配置と作家名などが記された触察マップ

今回の鑑賞では、触察ツールを使い、視覚以外の情報も交えながら鑑賞を行いました。
「MOT
コレクション コレクションを巻き戻す 2nd」の鑑賞では、展示室に入る前に触察マップに触ってもらい、展示室内のつくりや作品の配置などを点字と墨字両方で確認しました。

また、コレクション展示室1Fに展示している白髪一雄の《無題(赤蟻王 王のシリーズより)》については、油絵の触察ツールと共に鑑賞したグループもありました。

油彩画の触察ツール

まず作品を鑑賞した後、実際に油絵具の物質感を味わえる油彩画の触察ツールを触ってもらいました。「すごい!こんなに(絵具が)出てるんだ」と、油絵具の盛り上がりや筆跡、描き方による質感の違いを代わる代わる確かめました。
また、学芸員から「この作品は足で描いている」という説明があると、改めて作品をじっと見つめ、触ったり聞いたりしたことを元に、もう一度作品に向かい合っている姿が印象的でした。

作品から距離をとり、作品の様子を空になぞって伝えます

中西夏之の《洗濯バサミは攪拌行動を主張する》の鑑賞では、「これなんだろう」と作品をじっと見つめる生徒の姿がありました。学芸員から作品の説明を聞くと、洗濯バサミや下着、枕カバーなど、日常の身近なものが作品に使われていることに驚きの声が上がりました。
また、先生が生徒の手をとり作品の様子を空になぞって伝えたりと、作品を言葉と動作を交えて共有していました。

コレクション展の次は野外作品、アンソニー・カロの《発見の塔》と髙田安規子・政子の《修復》を鑑賞しました。

《発見の塔》は、まず皆で作品を触るところから鑑賞スタートです。手のひらに伝わる鋼の温度や硬さから、素材や大きさなどを想像してみます。
その後、階段を登ったり、ぐるっと作品の周りを回ったり、全身を使って作品を鑑賞しました。
生徒からは「アートだけど階段がついていて登れたのには驚いた」との感想も。塔に触っているうちに作品にすきまがあることをみつけ、通り抜けられる部分を発見した生徒同士で協力してくぐり抜けようとしたり、自分の感覚をフルに使い、個々に様々な発見をした《発見の塔》鑑賞でした。

《修復/東京都現代美術館(入口壁面)》を発見

また、欠けている壁の一部がモザイク状に修繕されている《修復/東京都現代美術館(入口壁面)》では、学芸員立ち会いのもと、手ざわりから作品を鑑賞しました。
学芸員から「この壁の中のどこかに作品がある」と聞き、生徒は触覚を頼りに壁の中にある作品を探します。ヒントを得ながら皆で探し続けていると、「あ、ここだ!」と歓声が上がります。《修復/東京都現代美術館(入口壁面)》は、壁面と同じ素材を用いていますが、スケールダウンして作られているため、他とは少し異なる手ざわりが感じられます。手で触れる感覚から、作品を鑑賞しました。

最後に鑑賞したのは、エントランスに設置されている、鈴木昭男の《点 音(おとだて)》です。
足と耳が重なりあった「点 音」マークの上に立ち、耳を澄ましてみます。
館内に聞こえる鳥の声。生徒の皆さんは音には気付いているようでしたが、この音が作品であり、外の音を採取した音であることを知ると、「これ外の音じゃないんだ」と驚いた様子でした。

生徒たちの感想を一部抜粋してご紹介します。
「今回の見学で、自分の気持ちに乗って想像をめぐる大切さ、またその想像を何かの形にして残すことの幸せを感じました。」
「実際に触ったり、音をよく聞いてみたり、説明していただいたりしたことから想像を巡らせたりと、多様なアングルから作品を楽しむことができました。」
「現代アートの概念はとても広く、多くの可能性を秘めているのだということを感じることができました。」

今回のミュージアム・スクールでは、生徒が自分で触れたものや作品の説明を元に、もう一度作品に向かい合い、作品について想像をふくらませている様子が伺えました。特に印象に残ったのは、生徒や先生同士で見えたものを伝え合い、「共有」を重ねることで、それぞれの鑑賞が広がっていく過程です。
盲学校の生徒の皆さんとの鑑賞を通して、作品鑑賞には「見る」だけではなく、触れること、聞くこと、感じることなど、たくさんの「みかた」があることを学びました。

(MOT2022年度インターン生 早川綾音)

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