2021年03月23日(火)

学芸員の出張授業:「それは」・・・

ミュージアム・スクール

 2020年度は、コロナ禍で団体鑑賞の予約の入っていた学校からキャンセルが相次ぎました。そうした中、こちらから学校に出向いて鑑賞の授業を行う、学芸員の出張授業を数校で実施しました。そのうちの一つ、町田市立南第一小学校(5年生3クラス)での授業の様子(2021年3月18日実施)をご紹介します。この学校は、昨年こどもたちの「分身」による作品鑑賞に参加してくれた学校です。「分身」による作品鑑賞とは、コロナ禍で出会わなくとも出会える学校団体鑑賞プログラムとして企画したもの。学校からこどもたちの姿を切り抜いた写真を美術館に送付してもらい、展示室の作品の前でその写真をかざし、あたかも展示室内で鑑賞している風に撮影したものを再度学校に送り返し、その写真をもとに鑑賞日記を作成するプログラムです。
(参照https://www.mot-art-museum.jp/blog/education/2020/08/20200815145203/

この「分身」参加後、学校側からやはりこどもたちには実際の美術館を体験させたいと学校団体鑑賞の申し入れがありましたが、2回目の緊急事態宣言が発令されたため残念ながら中止となりました。そこで、学芸員の出張授業に切り替え実施しました。

授業導入では、学芸員の仕事や美術館の建物の特徴を紹介し、次いで現代美術館のコレクション作品のいくつかを写真で鑑賞しました。鑑賞時に大切な「観察」と「想像」という観点についても伝え、作品はこどもたちでもよく知っている素材、例えばスーパーボールやストロー、自動車などを用いて作られたものを紹介しました。作品をみた瞬間に、素材について活発な発言が飛び出しました。

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続いて1700個以上のデジタルカウンターを用いて制作された宮島達男の作品を展示室内で撮影した動画を見せながら鑑賞しました。動画による鑑賞でも活発な発言があり、数字が変わるスピードや明るさの違い、表示されない数字の存在などに気が付いてくれました。動画ではわからない作品の大きさを想像してもらうと、「黒板くらい」「天井までの高さ!」「80cmくらい!」と様々な意見がでました。実は、事前に新聞紙を貼り合わせて実寸大のサイズにしたものを学校に持参し、授業開始前に教室の背後に天井から垂らすかたちで掲示しておきました。しかし、その存在に気が付いた児童はおらず、大きさを尋ねた後で、後ろにあるのが実際の大きさですと伝えるとみな一斉に振り向いて「わー!」と歓声が。また、実際の作品で使用されているデジタルカウンター(ガジェット)の実物を特別に見てもらい、数字の明るさ、スピードなどを実感してもらいました。

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授業後半は、宮島氏の制作コンセプトともなっている本作品タイトル《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》の「それ」にあたる言葉を考えてもらうワークを実施しました。あてはまる言葉に正解は無いですが、単刀直入に目の前に見えている「数字」とした児童が多かったです。他には「光」「時」「人生」「世界」「声」「想像」「美術館」「円周率」「生命」「努力」「地球」「未来」「心」「色」などどれもユニークで、これらの言葉に置き換えて作品を改めて見てみると、また違った作品に見えてきます。

こどもたちの授業後の感想シートには、

「作者は本当に想像力が豊かだと思った」
「作った人の発想力がすごいなと思った。はじめに発想が大事だと思った」
「物を作るのが好きだったけれど、作られた物を見るのも色んな想像ができてすごく楽しかった」
「今まで考えたことのないことや、いろんな個性が見られて良かった」
「友達の意見を聞いて、そういのもあるんだなと気づけて楽しかった」
「美術館には行けなかったけれど、色々な作品を見せてもらってとてもうれしかった」
「あらためて芸術家の作る作品は奥が深いなと思った」
「図工の見方がちょっと変わりました。今までは好きな物や自分が想像しやすい物を作品にしていたけど、自分が嫌いなものを作品にするという考え方もいいなと思った」
「私も私にしかできない事をこれからも探し続けたいです」
「作品の作者にはそれぞれの思いがあり、新しいものを作ろうとしていて、それはすごくすばらしいことだと思った」

などがありました。そして、ほぼすべての感想に美術館に行ってみたいと書かれていました。3クラス各1コマずつの授業でしたが、作者の考えや作品の捉え方、そして自分自身の物の見方の変化を感じてくれようです。

授業終了後の教員からのアンケートには、「こどもたちとの掛け合い、対応が良かったです。「それ」を考えるアイデアが良かった。本物のパーツや実物の大きさが関心を引いていました。単発ではない連携授業を今後もできたら良いです」とありました。

コロナ禍で学校団体としての来館が難しい日常が続いていますが、美術館や当館のコレクション作品についての紹介、現代美術への興味関心をこどもたち及び教員の方々に持ってもらえるよう、次年度もこうした出張授業を積極的に取り入れていこうと思います。(G)

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