2021年02月11日(木)

「音」を鑑賞する

ミュージアム・スクール

2021年1月8日(金)、東京都立文京盲学校の教室と美術館の展示室とをつないだ、オンラインによる鑑賞授業を実施しました。

本授業は当初、直接生徒たちが来館して鑑賞活動を行う予定でした。しかし、先の緊急事態宣言を受け校外学習が中止となりました。中止決定前に行った学校との事前打ち合わせで、担当教員から相談がありました。それは、自宅学習をしている授業参加予定の弱視の生徒1名用に展示室と生徒の自宅をつないだオンラインによる鑑賞活動ができないかと。そこで、学校で普段使用しているタブレットを展示室に持ち込んで実験を行い、実施が可能であることを確認していました。そのため、授業を全面的に中止にするのではなく、オンラインによる鑑賞授業へと変更したのでした。

当日の参加生徒は2名(自宅学習の生徒は欠席)で、いずれも全盲。展示室の様子を配信することができても生徒たちは見ることができません。しかし、事前の実験では学校のタブレットがかなり周囲の環境音をひろうことが確認できていたため、展示室内で聞こえてくるさまざまな「音」に注目してみることにしました。音を発している作品や展示室の雰囲気を音から想像するという鑑賞を行いました。つまり「音」を介した鑑賞です。

鑑賞した展覧会は企画展「MOTアニュアル2020 透明な力たち」。まず、「透明な力たち」というタイトルから、生徒たちに「透明な力」とはどんなイメージかという問いかけから始めました。生徒たちからは「空気や自然」「音」「日常的にでてくるもの」などの発言がありました。(写真1)

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写真1

続いて、最初の空間にある機械仕掛けの装置のような作品が発するさまざまな音に注意を向け、どんな動きをしているかを想像しました。バネが一定の間隔で動いている作品では、「リズミカルに何か動いている。テープレコーダーのような感じ」「大きいブランコ」などと想像が膨らみました。(写真2)

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写真2

また、耳かきがクルクルと高速回転している作品の音を聞いて「コーヒー豆をひいている」などと想像してくれ、実際に動いているものが何かを伝えると、思いがけないものの動きに驚きの声を上げていました。

さらに展示室を進んでいき、今度はバクテリアなどが作り出した繊維で出来たスピーカーから流れている音楽に耳を澄ませました。(写真3)

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写真3

ここではスピーカーの素材が何かを生徒たちに問いかけてみましたが、さすがに難しかったようです。事前に作家の許可を得て、学校に送っておいた実際のスピーカーの素材に触り、再度考えます。すると今度は「紙みたい」「溝があるのでレコードのようにも感じる」「匂いはあるようなないような」という発言が飛び出しました。その正体を紹介すると、教室にいる二人は「えー!」と驚きの声を発し非常に盛り上がりました。

さて、音ばかりでなくルールを書いた紙飛行機を新聞紙で作られた壁の向こうへ飛ばす作品では、作品コンセプトを紹介したのち、生徒たちもオリジナルのルールを考えました(写真4)。すると一人の生徒は自分が好きなアイドルにからめ「ジャニーズの名前を全員フルネームでいうこと」と考えてくれました。また家族で考えたルールを紹介する動画作品を案内した後で、家族のルールは何かありますかと尋ねると「誕生日に誰が何をやるか役割を決めています」や「食事は早いもの勝ち!」など家族だけのルールを教えてくれました。このようにして1時間ほどで展示室を見て回りました。

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写真4

授業終了後、生徒たちの様子を担当教員に尋ねると、終わってからも「今日は楽しかった、と話していました。特に二人のために特別に行ってくれた感じもうれしかったようです」とメッセージをいただきました。また後日生徒たちから直筆(点字)の感想文も送られてきました。

そこには、「音が大きいエリアが楽しかった。いつかは現代美術館に行ってみたい」「聴いたことのない音や触感、また見えないものでもよみがえる自然の大切さを学び、とても興味深い展示を見たと思った。これからも音の大切さを、自然の大切さを感じていきたいです」とありました。さらに担当教員からは「今回は美術作品を音のみで鑑賞するという盲学校としても初めての試みで生徒たちも集中して音を聞きながら、真剣に何だろう?と想像している様子が新鮮でした。私自身も目を閉じて聴いていましたが、新しい音が聞こえるとわくわくしました。生徒たちにとって、非常によい体験になったと思います。」とコメントをいただきました。

オンラインによる鑑賞は、空間と空間をつないでくれますが、その空間にある物質感や質量のようなものはなかなか伝わりません。しかし、今回は音という目には見えないものではありますが、耳で空気の振動という実態に触れることができたのではないでしょうか。また、作品の一部にも触れた体験は、生徒たちの反応も良く、そうした実物を併用することでより鑑賞が深まったように思います。今回の鑑賞プログラムを通じて、視覚に障害がある方たちとの鑑賞の可能性がまたひとつ広がりました。(G)

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