2019年03月18日(月)

アーティストの一日学校訪問(末永史尚さん)レポート1

アーティストの1日学校訪問

当館の所蔵作家が学校で授業を行う「アーティストの一日学校訪問」。
2018年度は画家・美術作家の末永史尚さんにご担当いただきました。

日常的に見ているものや展示する空間に関わるものなどから
視覚的トピックを抽出し、絵画や立体作品を手掛ける末永さん。
今回の授業では「制作したもので身の回りのものの見かたが変わる体験」を
大きなテーマに据えて実施しました。

末永さんが考えた授業案をもとに、学校ごとに打合せを行い、
それぞれの学校にあわせたオリジナルプランを作り上げました。
さて、どんな授業となったでしょうか。
各校での取り組みをご紹介します。

【1校目】2018年10月23日(火) 大塚ろう学校永福分教室 小学1~6年生 22人
 授業テーマ:「物の影をつかまえる」

1校目の実施となったのは、大塚ろう学校永福分教室。
さまざまに変化する影の面白さと出会ってもらう授業を行いました。
はじめに末永さんから自己紹介。

学生時代から現在に至るまで、ご自身が取り組んできた作品を紹介してくれました。
私たちの身近にあるものがモチーフになっていたり、
組み替えることで新たなイメージが創出される作品があったり、
"ものの形の面白さ"が伝わってきます。
(今回は、学校側で手話通訳の方を手配していただきました)

続いて、今日やることの説明です。
こどもたちには「光をあててみたいもの」といったお題で
学校内で形探しを行い、事前にいくつかのモチーフを見つけておいてもらいました。
部屋を薄暗くしたら、テーブルごとにセットされた透明の台の上に
モチーフを組み合わせて設置します。
そこに、上や斜めから光を当てて、下に映る影の変化を観察します。
光の距離や角度を変えることで、影は縦横無尽に変化していきます。
じっくり影探しを楽しみ、ここぞ!という影の形が見つかったら、
光を固定して、その影の形を絵の具で描き採っていきます。

モチーフは、テープカッターや洗濯ばさみ、スプーン、フォーク、
マジック、ラップの芯、クッキーの型など。
モチーフを重ねたり、並べ方を工夫したり、さまざまな組み合わせを
試しながら、影の出現を楽しみます。
「影が立体的に見える!」などといった声も上がっていました。

左上写真は、複数のモチーフを組み合わせた影を「恐竜」に見立てた作品。
こどもたちは想像力を駆使しながら影を生み出していました。

つかまえた影に手を加えたい場合は、絵の具やペンなどが用意された
「描けるコーナー」に移動します。
影を何かに見立てて描き加えたり、背景をつけて華やかにしたりと
絵を仕上げていきました。

完成した作品を壁面に貼り、最後に鑑賞会を行いました。
(左側)ボール紙とスポンジをモチーフにした影には、
目を描き加え、不思議な生き物が誕生。
(右側)テープカッターと洗濯ばさみを組み合わせた影から創出された作品。
モノトーンの影の中から、自分なりの色を探して描きました。

映し出された影から想像力を広げて、誕生した数々の作品。
先生からは「普段は、いつも似たような絵になってしまう子もいるけれど、
今回は色使いや描き方が全く違っていた。影を見て、そこから感じたことを
表している様子が伝わってきた」との感想が寄せられました。
こどもたちは、それぞれに影の面白さを味わう機会となったのではないでしょうか。

【2校目】2018年11月13日(火) 都立葛飾総合高等学校 高校3年生11人
授業テーマ:「アーティストによる自作紹介&見慣れた場所で
展示する作品をつくるワークショップ」

今回対象となったのは、美術の授業を選択している高校3年生。
事前に、先生と生徒たちで、今回の学校訪問で取り組んでみたいことを
話し合い、出てきた希望をもとに末永さんが授業内容を考えてくれました。

はじめにご自身の作品についての紹介です。
生徒のみなさんから、末永さんのポートフォリオを見たい、
との要望があったので、事前にお送りして見ておいてもらいました。
当日はそれをふまえて、末永さんがご自身の育った環境を紹介しつつ、
学生時代から現在に至るまでの作品やその制作のコンセプトについて
話しました。
生まれ育った風土や環境が制作に影響していることや、
見えているようで見えていないものへの関心、
作品が空間にどのように存在するかといったことなどについて、
作品を紹介しながら丁寧に語ってくれました。

末永さんのお話の後は、いよいよ制作へ。
「今日は、みんなの身の回りにあるようなものを作り、
それを学校空間に展示します」との説明とともに、
末永さんが一つずつ準備してくれた制作キットが紹介されました。

キットには、ガムテープやマスキングテープ、文庫本やカタログなどの
書籍と、それらを立体的に再現するためにカットされたボール紙が
入っています。
実物を参考にしながら、ボール紙を組み立てて、立体化し、
色をつけていきます。
モチーフはあみだくじで決定しました。

接着剤を使ってボール紙を成形していきます。
立体物が出来上がったら表面に白いジェッソを塗り、真っ白な描画面を作ります。

真っ白に塗ったら、それぞれのモチーフの特徴を描いていきます。
末永さんから伝えられた描画時の注意点は2つ。
1.文字は描かない。
2.細部は描かずに、"塗って"描き写す。

集中しながら慎重に色をつけていきます。
色作りが難しい!という生徒には、末永さんから多めに色を
作っておくのがポイントだとアドバイス。
モチーフをよく観察しながら、色や形を選び出して色を塗って
いきました。
不思議なもので、1色でもモチーフの特徴的な色が塗られただけで、
そのものに見えてきます。

作品が完成したら、今度は展示を行います。
今回の授業は、キットを組み立てて、色付けし、展示をして
鑑賞するまでが末永さんによって「制作」として位置づけられています。

「たとえば、作品を展示するとき、美術館では見る人の目線の高さに
絵をかけるといった決め事があります。
今回は、あえて展示するためではない場所に作品を設置してみます。
そうすることで、その空間を意識するようになり、
普段よく見知った場所をいつもとは違う目でとらえるようになることに
注目してほしい」と、末永さん。

展示場所として選ばれたのは、図書館と渡り廊下。
生徒たちは2つのグループに分かれ、それぞれの場所に
作品を展示します。
「どうやったら作品と面白い出会い方ができるか
考えてください」との末永さんの言葉を受けて、
作品を置く場所を考えていきます。
それぞれ展示が済んだら、お互いに場所を交換して鑑賞しました。

図書館内では、書棚にガムテープ作品が置かれていたり、
図書館の本と並べて本の作品が置いてありました。

また、渡り廊下には、青い手すりの上に、色みが近いカラーテープの
作品が置かれていたり。
一見すると見過ごしてしまいそうな場所に作品がありますが、
作品の存在を意識することで、その環境全体の感じ方が違ってきます。

最後に末永さんから、
「置く文脈や状況によって、ただの四角が別のものに見えたり、
丸い形を目線の上辺りにつけるだけで、時計を想像したりする。
そういった効果を使って僕は展示を作っています」とのお話がありました。
末永さんご自身が手掛ける作品に近い造形物の制作を通して、
末永さんの眼差しを追体験する授業となったのではないでしょうか。
(A.T)

---- レポート2へ続きます

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