2024年04月18日(木)

翻訳できない わたしの言葉|金仁淑 《Eye to Eye》ダイアログ

金仁淑の展示室内で配布している、作品内で交わされている会話の書き起こしテキストデータです。翻訳、読み上げ、拡大、白黒反転など、ご自身が使いやすいようにご利用ください。

Below is the transcript text data of the conversation that takes place in the video works by Kim Insook. The online text can be translated, read out loud, enlarged, have their colors inverted from black to white, etc. as you like.

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金仁淑 “Eye to Eye, Side: A” Dialog

Side: Aは、サンタナ学園の子どもたちが置かれている状況を垣間見ることができる作品です。中央に設置したポートレート作品の背景として制作しました。 モニターで上映中のSide: Bと、異なりながらも重なり合う背景が映し出されています。

作品には、カマルゴ・ミドリさんの通訳を介した私と子どもたちの対話があります。私たちがコミュニケーションを取るためには丁寧な通訳が必要であること、幼い頃から何度も移住を経験していること、日本語を話すのが難しいこと、言語の壁を越えた信頼関係により対話していることなど、声のトーンに集中して鑑賞していただくため、映像には意図的に字幕をつけていません。以下がSide: Aのダイアログの書き起こしです。

N: ニコラス ユウジ マツダ。

I: ニコラス ユウジ マツダ。

N: うん。

I: 何歳ですか? N: えーっと、17歳。

I: ニコラスは日本で生まれましたか?

M: (通訳) Nasceu aqui no Japão?

N: Não, mas eu vim.. eu nasci no Brasil, mas com poucos meses eu vim para cá. Aí eu sou naturalizado daqui.

M: (通訳)生まれはブラジルだけど、何ヶ月かの時に、赤ちゃんの頃に日本に来て、でも日本の国籍がある。

I: そのままずっと日本にいたんですか?

M: (通訳) E você ficou desde pequenininho aqui no japão?

N: Não eu fiquei até os cinco anos. Aí eu voltei para o Brasil e com 14 anos eu voltei para o Japão.

M: (通訳)えーっと、その後5歳でブラジルに戻って、14歳でまた日本に来た。

I: 14歳に戻ってきた時からサンタナ学園に通ってますか?

M: (通訳) Desde os 14 anos que você voltou para o Japão, você está aqui no Santana?

N: Não, eu estudei no Latino, aí depois eu fiz um ano... eu fiz um ano no Latino, aí eu fiz um ano na Escola japonesa no Sakura kyoshitsu aí eu vim para o Santana depois.

M:(通訳)うーん、1年間ラチーノ学院にいて、その後1年間ぐらい桜教室っていう日本の学校に行って、その後にサンタナ学園に来た。

E: Emily Yugawa Montecelli.

I: エミリー?

E: ユガワ モンテセーリ

I: ユガオ?

I: ユガワ モッテセリー?

I, M同時に: ユガワ モンテセーリ

I: エミリーは何歳ですか?

E: 14歳。

I: エミリーは日本で生まれたの?

E: ブラジルで。

I: エミリーは日本にいつ来ましたか?

E: Eu não lembro, acho que eu vim com 2 anos de idade.

M:(通訳)よく覚えてないけど、多分2歳のときかな。

E: É o que meus pais falam.

M:(通訳)親が言っているのは2歳の時。

I: 2歳の時? エミリーは2歳の時に来てからずーっとサンタナにいるの?

M:(通訳)Desde os 2 anos você está aqui no Santana?

E: Não. Eu fui para Mie-Ken daí eu estudei no yochien (jardim de infância), e eu estudei até o terceiro ano na escola japonesa.

M:(通訳)始めは三重県にいて、そこで幼稚園に行って、小学校3年生まで日本の学校に通った。

E:Daí tava ficando difícil, eu queria... eu viajei para o Brasil pela primeira vez, né? Não, viajar né, porque eu nasci lá, daí eu voltei para lá, viajei. E aí eu queria aprender a ler em português porque toda minhas priminhas sabiam né, entendeu? Aí eu também quero né aprender escrever meu nome assim, daí eu comecei a falar para minha mãe e minha mãe procurou uma escola brasileira e achou. Porque meu primo o Iago já estudava aqui nessa escola e daí que a gente resolveu se mudar para cá.

I: 長いけど大丈夫ですか?

M:(通訳)うーーーん、なんとなく。はい。

I: もう一回言ってもらってもいいですよ。 

M:(通訳)その後小学校3年生まで日本の学校に行ってて、その後ブラジルに行ったんだけど、初めてブラジルに行った感じだった。 

I: そうだよねー。

M:(通訳)生まれは向こうだけど2歳から来てたから初めて行ったようなもんで、ポルトガル語が読めなくて。

I: 読めなかったんだ。

M:(通訳)いとこたちはみんなポルトガル語が読めたので、自分もポルトガル語を読みたいってお母さんに言ったら、お母さんがブラジルの学校を探してくれはって、ここで既にいとこも勉強してたから、お母さんがこっち(滋賀)に引っ越すことにした。 

I: ふーーん。

M:(通訳)それで学校もこっち(サンタナ学園)に入った。

I: じゃあエミリーは日本の幼稚園と学校に行ってたから日本語もちょっとわかるんだよね?

E: はい。

I: ふふふふ

K: タマシロ カオリ マエダ。

I: みんなはカオリって呼ぶ?

K: うん。みんなカオリって呼ぶ。

I: そっかぁ。日本の学校に行ってたんだよね? それで日本語上手だもんね。楽しかった? 日本の学校。

K: うん。

I: サンタナも楽しい? じゃあどっちも好き?

K: どっちも好きやけど、まぁ今はもうブラジルの学校に慣れたから、もう日本のには戻りたくないなって感じ。

I: 日本の大学とか高校とかいろんな学校あるけどやっぱりブラジルの大学に行きたいと思ってる?

K: 行きたいと思ってる。 

I: ブラジルに帰った時に日本に長くいたらオリジナルのブラジル人ともちょっと違う? 

K: ブラジル人でもないし、でも日本人でもないなって感じがする。 

I: 今そう思ってる?

K: 今はまぁブラジル人だと思ってるけど。

I: 行ったらまたそこでもちょっと違うかなと思う?

K: 違うかなと思う。

I: 違ってた時に、違っててもいいんだよって誰か教えてくれる?

K: まぁ先生たちとか、家族とか。

Y: (ポルトガル語) チャオ!アテ アマニァー(また明日)! 

I: また明日ねー!また明日!! 

Ma: ヤマダ マルセラです。でも本当はヤマダ ホドリゲス マルセセラ。 

I: ホドリレス マルセラ?

Ma: ホドリゲス マルセラ。

I: ホドリゲス マルセラ?

Ma:うん。

I: マルセラってみんな 呼んでる ?

Ma: うん。マルセラとマルって呼んでる。

I: マルセラはさぁ、日本語が上手じゃない? 日本の学校にも行ってたんだよね。 

Ma: うーん、3年から6年まで日本語の学校に行ったから。まあ、上手っていうか上手じゃないけど。でも喋れる。

I: マルセラはどんなお仕事したいの? 

Ma: うーん、あのぉ、テコンドー? の先生になりたい。理由は日本に来て初めてテコンドーに出逢って、まぁすごく、えーっと綺麗? なんか、動き、動き方と、うーん、ケオリ(蹴り)とか、すごく綺麗と思って。で、あぁ先生になりたいなぁって思って。 

I: テコンドーはどこで教えたいの? 

Ma: あのぉ、初めは日本で教えたかったけど、えー来年。 

I: うん。 

Ma: 来年はブラジルに行くから。あの、多分戻らないけど、戻りたいと思ってる。 

I: 日本に? 

Ma: うん。 

I: へー。マルセラは日本好き?日本で暮らすのはいい? 

Ma: 好き。今は好き。 

I: 今は好き? 

Ma: 始めはきらかった(嫌いだった)。 

I: 最初はいつ来たの? 

Ma: うーん、2017年。 

I: 17年に来て今22年だから、5年いたんだね。いつから好きになった? 

Ma: うーん、サンタナに入った時。 

I: 本当?サンタナに来てから日本もいいなって思うようになった? 

Ma: うん。

金仁淑 “Eye to Eye, Side: B” Dialog

Side:Bは、サンタナ学園と子どもたちが置かれている状況を垣間見ることができる作品です。中央に設置したポートレート作品の背景として制作しました。7mのスクリーンで上映中のSide:Aと、異なりながらも重なり合う背景が映し出されています。

作品は、サンタナ学園の校長先生である中田ケンコさんとの対話を基盤に構成されています。25年間続けてきたケンコ先生の日常、日本に住むブラジル人の背景、外国人として日本で生きることなどについて話しています。表情や声のトーンに集中して鑑賞していただくため、映像には意図的に字幕をつけていません。以下がSide:Bのダイアログの書き起こしです。(作品の中には一部適切ではない言葉が出てきますが、上映はそのままとし、この書き起こしでは言い換え表現としています。)

K:もう じっとしたら病気になる。 絶対病気になる。

K:だからもう25年、25年同じ状態だから。

K:止まりられない(止まれない)。 ハハハハハ

I:ケンコ先生は朝何時に起きて

K:4時

I:4時に起きて、何時に寝られるんですか?

K:もう20時半ぐらい。21時までも寝てます。毎日早く寝る。遅かったら、20時15分の送迎があったら、21時半に家に着くから、22時までに寝てます。

K:けども残業(する家)の子がいなかったら、もう20時半から21時までに寝てる。

I :残業する家の子供たちがいるときは、晩御飯も食べて帰るって言ってましたもんね。

K:昨日は3人残った。

I:そうなんですね。(朝)6時ぐらいだと、子どもたちはまた眠たいですね。

K:そう。だから赤ちゃんはもう10時から、今学校に着いたら7時ちょっと(過ぎ)で、学校に着いたらもう朝ご飯を食べるね。ミルクをやるのね。その間、10時から10時半くらいにお昼ご飯食べて、お昼寝する。早く帰るから。

M:(ハグをしに走り寄り、日本語で「おはよう」を知らないため)んーん

I:おはよう

O:すいません。

K:あぁ、はい。

K:何でも、鉄やら缶やら、みんな集めて売ってた。

I:リーマンショックのときが大変だったんですよね。

K:ものすごく大変だった。120人の(子どもの)中で35人(だけ)残ったから、難しかった。

K:でもあの時はこのトラックはなかった。ハハハハハ。だからワゴンやらバスの中に、新聞やら何でも乗せて売りに行ってた。

I:へぇー

K:あの時はみんな ブラジルに帰りました。国からお金をいただいて、飛行機代やらみんな貰って帰った。

I:なるほど。

K:オブリガーダ(ありがとう)。チャオ (さようなら)。 この方はブラジルから電話くれたのね。   

I:へぇー ブラジルからですか。

K:Facebookから話してきます。

I:Facebookからですか?

K:それで、聞いてるのはゲイ。

I:ゲイ?   

K:ゲイで旦那さんは男。

I:あぁ。

K:3年も結婚してますけども日本に来れるかって。うーん。難しいね。私もどんな状態かわからないけども。だから分からないけど調べるよって(言いました)。できないとも言えないしね。後で(日本に)来たら(調べてないと)、中田先生ウソつきと言われちゃうから。誰かに聞くけども、今までそんな状態は聞いたことがない。

I:日本だと同性で夫婦って認められないですけど。

K:認められない?

I:はい。日本(の法律)では結婚できないです。

K: はい。それだったら法律は変わらない。入れられない(入国できない)。

I:日本国籍の方が学校を運営するのが楽だから。

K:そうそう。

I: (日本国籍を)取ろうと思ったんですよね。

K:取りたいけど、取れなかった。日本国籍とって、日本人になって、同じね。なんかいいものを、良い学校になりたいけど、できない。ハハハハ

K:うーん、難しい。

I: 難しいですね。

I: 日本の法律が古いじゃないですか。

K:そう。古い。

I: だから日本で外国人として生きていくのは結構面倒くさいし難しいですよね。

K:ブラジル人は今まで、そんなに年寄りになると思ってなかった。そこまでになる(歳をとる)と思ってなかった。だからブラジル人は(日本で)生活保護に入ってる人が多い。だから私は言うのね。貯金して、何年日本に住んでてもブラジルに帰らなあかん。ブラジルに家を買って、どんな年寄りでも定年のお金(年金)を貰ったら(食べて)行けるから、そこまで考えなあかん。

K:永住権は持っていますけども、日本国籍は持ってないね。

I: 私も特別永住権を持っているんですけど

K:日本国籍難しいね。うーん、それが難しい。

I: 難しいですね。同じですね。在日外国人ね。

I: (お話を)聞いてたら、子ども達のアイデンティティーが 難しいなと思って。もう帰るって思ってるからブラジル人だけど、でもいつ帰るかわかんないし。

K:それが可哀そうね。

I: 帰って就職できるような学力があるかどうか。

K:勉強が必要。大学に行かなあかん。勉強せなあかん。

I: でも大学行くにもお金がいるから。

K:それも難しい。

I: やっぱり日本語ですね。日本で生きていく時に(必要ですね)。

K:日本語が必要ね。

I: そうですね。

K:子どもたちが好きだから。ハンバーグやらね。だから好きなものを作るから。アハハハハ。

I: 野菜は食べないって言ってましたもんね。

K:そうそう。レタスは好き。レタスとキャベツね。だから私、サラダ作るね。レタスとキャベツ。

I: ケンコ先生のサラダも美味しいですもん。

K:アハハハハハ

I: ケンコ先生、バスから降りた後、3分しか座ってないですよ。

K:ハハハ。今はちょっと座る。お昼ご飯だから。ハハハハハ

I: 座ってるところを 本当に見たことない。座ってても誰かのメッセージをずーっと打ってるか、電話してるか。

K:電話かメールかで、お母さんが子どもの状態を聞いてきます。

I: すごい笑ってらっしゃって。

K:だから朝でも子どもたちのお母さんが、中田さん元気ね 今日も楽しい? (と言います)楽しい。毎日楽しい。ハハハハハ。ねー。どんな心配をしてても、子どもたちやお母さんと関係ないからね。楽しみで迎えに行かなあかん。それが嬉しい。それが仕事。ハハ

I:いろんな食料が届きますね。

K:はい。そう。ハハハハハ

Y:写真じゃないから止まっちゃダメ。

K:ハハハハハ

I:笑いすぎ、笑いすぎ。

Y:めっちゃ(野菜が)入ってる。

I:里芋で今日お料理なさるんですか? 明日?

K:明日。明日ね。

I:明日楽しみにしています。

I:ケンコ先生 ランチ食べましたか?

K:まだ。一緒に食べます。

I:今日はお休みですけど 送迎も行かれたんですよね?

K:はい。送迎も。

I:いつも通りの時間に?

K:同じ時間。全部(全員)来ないけども、時間をみんなわかりますから。休みの日にちょっと時間遅れたら、後で癖になるから。その時間できないから。いつも通りにせなあかん。

K:モニカ先生も私が(誘った)。モニカの時は(モニカ先生の息子の)リウが小さかって(幼い頃で)、リウを学校に入れるために来た。モニカ先生も一緒に働いたら?って、先生になったら?って。その間にモニカ先生は大学も通い始めたし。

I:みんなケンコ先生のこと言ってました。インタビューで。

K:ハハハハハ

I:ケンコさんが自分を連れてきた、みたいな感じで。

K:ハハハハハ               

I:言ってましたね。もともとお母さんたちだった人にも、いい人がいたらやってみませんかって(声をかけられたんですよね)。

K:そう。だからモニカ先生も大学行って、今はもう大学終わったから、ブラジルに帰っても 先生の仕事もできますし。

I:その大学はオンラインで勉強?  

K:そうです。2ヵ月に1回は名古屋まで行って、テストは2ヵ月ごとに受けなあかん。

I:それはブラジルの学校で?

K:ブラジルの学校です。

(ブラジルのお誕生日の歌)
エピケ エピケ エピケ エピケ エピケ!(ピークだ!) エオラ エオラ エオラ エオラ エオラ!(時間だ!)
ハ チ ブン マリア!マリア!マリア!マリア!マリア! イェーイ!

I:ケンコ先生のことをみんなチアホーザって。ホーザ(Rosa)おばさんっていう意味ですか? (*中田ケンコさんのブラジル名はRosa Kenko Nakata

K:そう。ホーザおばさんの意味。

I:チアホーザ

K:はい。みんなチアホーザって言う。

I:校長先生の感じではないんですね?

K:感じではない。そう。           

I:みんなここの先生っていうことはわかってるんですか?

K:わかってるけども、子どもたちはやさしい言葉(を使う)。みんなブラジル人はやさしい言葉ね。

I:やさしいっていうのは簡単な言葉っていう意味じゃなくて優しいってこと? 

K:そうそう。優しく感じる言葉だから、みんな親しい意味を込めて、チアホーザ。

I:はい。

N:明日、近江八幡で写真を撮影するワークショップをします。

K: (ポルトガル語) 明日学校に着いたら早く朝ご飯を食べて、すぐに行こう。

M:チャオ (さようなら) 

I:バイバイ

K:毎日4時に起きて毎日同じことをしてるから、もう体は慣れてます。お昼に病院に行っても、どこに行っても疲れない。子どものためだから。好きなことをしているから。それが一番大事だと思います。 ハハハ。みんな何時に寝るのと言います。ソファに座ったら寝る。 ハハハ。時間が無いけどソファに座ったら寝る。ハハハ。元気で楽しい仕事だから疲れない。ものすごく好き。好きなことをしてたら疲れない。ハハハ。

K:ムイト オブリガーダ(どうもありがとうございます)。 ありがとうございます。どうもありがとうございます。

©KIM Insook 転載不可


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