2024年03月29日(金)

アーティストの1日学校訪問(片岡純也さん&岩竹理恵さん)レポート1

アーティストの1日学校訪問

当館の所蔵作家が都内の学校を訪問して授業を行う「アーティストの1日学校訪問」。令和5年度は二人組のアートユニット、片岡純也さんと岩竹理恵さんとともに、小学校4校、中学校1校、高校1校の計6校を訪問しました。

片岡さん、岩竹さんは2013 年パリでのレジデンスをきっかけにアートユニットとして活動を開始し、身のまわりの物や現象、「動き」を取り入れた作品を制作しています。今回の訪問授業のテーマは「ものごとが動く、物とまわりの力の観察」。授業の前半には学校へ運んだ二人の作品4点を鑑賞し、物のもつ本来の用途や機能とは離れて見えてくる物の動きの面白さや仕組みに注目しました。後半にはその中の作品《やじろぐ枝》を題材として、こどもたち自身でヤジロベエの原理を用いた作品を作りました。
各校での授業の様子をご紹介します。

1校目】2023126日(水) 葛飾区立堀切中学校 中学2年生 31

訪問1校目は、美術を選択する中学生を対象に実施しました。
最初に、片岡さん、岩竹さんの作品を囲んで一点ずつ鑑賞していきます。

一つ目は、電球を使った作品《回る電球》。電球に少しの力を加えるとその場でくるくると回り始めます。回り続ける電球を不思議そうに目で追う生徒たちに片岡さんがその仕組みを明かします。机に何気なく置いた電球がくるりと回り出した時、いつも見ていた電球が違うものに見えたことからこの作品の着想を得たそうです。「星の軌道みたい。小惑星とか隕石の衝突みたい」「重心がすごい。地球を感じる」「下に落ちそうで落ちない」と次第に生徒たちから感想が出てきます。

岩竹さんからの「ふと気になった日常の何気ないことを改めて観察してみて」というアドバイスに皆、耳を傾けながら改めて作品を見ています。

最後の鑑賞作品は、ヤジロベエの原理を活かした《やじろぐ枝》。コップに立てられたペンの先で枝がバランスをとりながらゆらゆら動きます。

片岡さんから見本の《やじろぐ枝》が渡され、生徒たちは順番に手に取ってみては、揺れ動く枝にかかる力の釣り合いを感じ取っています。

次に、ヤジロベエの原理を用いた作品《やじろぐ枝》を作ります。
片岡さんからの制作方法の説明後、生徒たちは思い思いに材料を選びます。材料は割り箸や角材、筆、ストロー、針金、クリップ、ハンガーなど。他には、片岡さんが新潟の滞在制作の際に海で拾ってきた漂流物もあります。生徒たちはまず材料を決め、指でヤジロベエの支点の位置を探ります。支点をうまく見つけられずバランスを崩し、「ああ!ダメだ~!」という声とともに、あちらこちらで材料が床に落ちる音も聞こえてきました。材料を複数組み合わせて、ヤジロベエの重心を支点より下にしてバランスをとる工夫をしていきます。

着々と出来上がり、片岡さんが用意してくれたカチューシャに完成した《やじろぐ枝》をつけてもらう生徒も。頭の上でバランスを取って揺らしながら、まわりの友達にうれしそうに見せています。

最後に、片岡さん、岩竹さんが完成した作品を一人ずつ見てまわり、それぞれの作品の面白い点や工夫したところを皆で共有しました。生徒たちからは「重心を見つけるのが難しかった」「考えることが楽しかった」という感想がありました。「バランスをとるのは難しいけれど、思い通りにいかないところが面白い。皆、僕が想像しなかった作品を作っていた」と片岡さん。「重力や風の力など見えない力も作品の素材として、バランスを探りながら作ってくれた」と岩竹さん。

  • 「湾曲しているのがいい。シンプルだけどきれいなバランス」(片岡さん)

  • 完成した《やじろぐ枝》を頭に乗せる生徒

  • 漂流物を組み合わせた作品

  • 針金とクリップでバランスをとった作品

終了後に美術の先生からは、作家の新しい視点や発想をその後の作品づくりに活かして取り組むことができたという感想をいただきました。


2校目】20231213日(水) 東京シューレ江戸川小学校 小学36年生 29

訪問2校目は、こどもたちそれぞれの個性やペースを大切にしたフリースクールが母体の小学校です。

この学校では特に鑑賞の時間、目を輝かせながら作品に釘付けになるこどもたちの姿が印象的でした。
それは、2冊の本が同時にゆっくり回転し、ぶつかった瞬間に互いにページをめくり合う作品《めくりあう本》です。片岡さん、岩竹さんによると、本を反らせてパラパラめくる時の楽しい、気持ちいいという発見からこの作品を作ったそうです。2冊の本がめくり合う瞬間を見て、「パラパラ漫画が作れそう!」と答える子や、驚きのあまり拍手をする子もいました。

二人は作品の原理や仕組みをわかりやすい言葉でこどもたちへ伝え、「普段の生活で見過ごしていることや不思議に思ったことを作品にしている」と話します。二人の自然体で温かい雰囲気がこどもたちの緊張を少しずつほぐしていきます。

《やじろぐ枝》の制作では、枝の支点を探る作業は真剣そのもの。黙々と集中する子、どんどん手を動かしていく子、じっくり丁寧に作業する子、それぞれのペースで自分の《やじろぐ枝》を作っていきます。片岡さん、岩竹さんはこどもたちの相談にのりながら、そっと彼らの作業を見守ります。

完成後には、こどもたちから自分の作品の自慢したいところやこだわったところを教えてもらい、皆で鑑賞し合いました。重い材料をつけるため支点の位置を工夫したもの、枝がよく動く効果をねらったもの、枝の形から動きを感じるものなど、片岡さん、岩竹さんは一人ひとりへ感想を伝えました。

クリスマスツリーをイメージした作品

  • 枝とストローのラインを上手に組み合わせた作品

  • 重さで枝がしなりながらもしっかりバランスがとれている作品

最後に、先生からの「みんなの試行錯誤が見えたのがとてもよかった」という言葉のとおり、どの作品からもこどもたちのアイディアや工夫がよく伝わってきました。こどもたちからは「テーマを考えたり、素材をくっつけたりして面白かった」「色々な作品を見せてもらえてうれしかった」「やったことがないことをできてうれしかった」という声があり、充実した体験になったことが窺えました。(S.O

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