2024年01月04日(木)

入院中のこどもたちと楽しむ鑑賞と創作

スクールプログラム

教員の方々が、病院内に設けられた教室やベッドサイド等で授業を行う病院内教育。今年度も、東京都立墨東特別支援学校 病弱教育部門 つばさ病院訪問の先生から「児童・生徒たちが美術や美術館を味わう機会をつくりたい」とのご相談を受け、オンラインによる授業を行いました。
”入院中でも美術館にやってきたような体験ができること、そして鑑賞と創作の両方を楽しめること”というご要望から、当館コレクション展示室3Fに展示されているサム・フランシスの絵画作品を取り上げることにしました。

サム・フランシス作品の展示風景

サム・フランシス作品の展示風景

病院訪問のオンライン授業では、児童・生徒の皆さんに寄り添う先生方の協力が欠かせません。先生方とは事前に何度も打ち合わせや流れの確認を行いました。さらに、こどもたちの希望に沿って鑑賞作品を選んだり、発言を受けて作品の細部が見えるように美術館スタッフ側もカメラワークの練習を重ね、実施日(2023112日(木))を迎えました。

参加者は小学生と中学生のポンポコさん、さけさん、ネオさんの3名。プライバシーの観点から本名ではなく、それぞれ呼ばれたい名前を考えておいてもらいました。
実際に美術館に入って進んでいく様子を味わえるような写真を用意し、クイズを交えながら話をしていきます。クイズの答えは2択。それぞれA/Bの回答カードを手元に用意してもらい、こどもたちとのやり取りを重ねていきます。

  • 手元に用意された回答カードでクイズに参加

    手元に用意された回答カードでクイズに参加!

  • オンライン授業を受ける院内学級の様子

    オンライン授業を受ける院内学級の様子

企画展示室の様子や音を用いた屋外彫刻作品、レストランやカフェなどについてもご紹介。
長いエントランスの突き当りまで進むとコレクション展示室があります。今日はここに展示されている作品を鑑賞することが伝えられると、3F展示室入り口にいるスタッフのカメラに切り替わります。

展示室を映し出すカメラの様子

展示室を映し出すカメラの様子

ゆっくりと展示室の中にカメラが入っていきます。展示室の四方には、横幅6mを超えるカンヴァスに描かれたダイナミックな作品が展示されています。
まずは児童・生徒の皆さんに、どの作品から見たいかアンケート。A/Bの2択で、希望の多かった作品から鑑賞しました。

最初に全体を見て気づいたこと、想像したことを教えてもらいます。
声を出せない子は、近くにいる先生が代わりに発言内容を書いて伝えてくれます。
「紫色がブドウをぶちゃっとしたみたい」「ブルーベリーみたい。梅干しみたいな形も見える」「ブルーベリーを食べているスヌーピーに見える!」という発見を受けて、iPadを近づけます。色の印象から、食べ物のイメージも。

「ブルーベリーを食べているスヌーピー」

「ブルーベリーを食べているスヌーピー」

「竜みたいに見える」というコメントも

「竜みたいに見える」というコメントも

カメラを近づけると絵具の質感も見えます

カメラを近づけると絵具の質感も見えます

カメラを画面に近づけると、複雑に重なり合う色や絵具の盛り上がり、照明によって艶めく絵具の様子も見て取れます。さらに「ドラゴンみたいにみえる」「ちっちゃいこどもみたいな影もある」というようなコメントも。
鑑賞後半には、サム・フランシスの作品が木枠に張られ、展示されていく様子も紹介。

サム・フランシスの作品が展示される様子

サム・フランシスの作品が展示される様子

ひとしきり作品を鑑賞したら、再びZoomに切り替わり、次の活動について伝えます。
「近くにいる先生から使うものを受け取ってください」という美術館スタッフの声を受けて、こどもたちに手渡されたのは、真っ白なカンヴァスとサム・フランシスの作品画像4点、タイトルを書く紙、そして色鉛筆やペン、クレヨンなどの描画材です。

使用画材のイメージ

使用画材のイメージ

「これから、いま鑑賞したサム・フランシスの世界を広げる作品作りに挑戦します。今日はサム・フランシスと同じように皆さんも“カンヴァス”に描いてもらいます」
ここでポイントとなるのが、作品画像。展示されている4作品の中から1点を選び、カンヴァスの好きな位置に貼り付けたら、余白部分にサム・フランシスの作品から着想を得た色や形を表現していく、という内容です。作品から想像したことや注目したことなど、それぞれの鑑賞体験をもとに描いていきます。
通常、カンヴァスの表面には絵具をのせるための下地処理がなされていますが、ベッドで絵具を使うことはできません。そこで、色鉛筆やペンなどで描いてもきれいに発色するような加工をカンヴァスに施したものを準備しました。

制作の様子

制作の様子

制作開始の声がかかると、それぞれに描き進めていきます。中にはあっという間にできた!という子も。20~30分ほど経ったところで、どんな作品ができたか発表してもらいました。
「絵文字の世界を表した」「今日用意されていたクレパスや色鉛筆、カラーペンなどすべての道具を使って描いた」「龍が歩いているところ」など、完成した作品を紹介してくれました。

絵文字の世界を表した作品

絵文字の世界を表した作品

具体的なイメージを描いた子もいれば、色のリズムが感じられるような作品を描いた子も。それぞれに個性のある作品ができあがりました。
今回制作した作品は、12月15日(金)、16日(土)開催の墨東祭で展示されました。私たちも墨東祭に伺い、力作の数々を拝見しました!

  • つばさ病院訪問の展示風景

    つばさ病院訪問の展示風景

実施後に寄せられた先生方からのアンケートには、
・児童・生徒の見たいところを見せてくださり、ただ見るだけでなく、実際に体験しているような時間になっていた。
・児童・生徒からたくさんの意見が出ていた。
・アーティストの作品に自分のイマジネーションを重ねるなんて、現代美術館さんならではと感心した。こどもたちにとって良い体験となったと思う。 
・このような創作参加できる鑑賞は初めてで新鮮な感じがした。3名の児童・生徒の個性が良く出ていた。
などのコメントがありました。

今回のオンライン授業実施にあたっては、館内のネットワークが安定しないという不安もあったり、タブレットを介した画面での鑑賞がどこまで可能か手探りではありましたが、美術館の楽しさを少しでも味わっていただけたら嬉しいです。(A.T)

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