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2012年1月 6日

「ゼロ年代のベルリン」作品紹介-3(クリスチャン・ヤンコフスキー)

今回は、10月29日より公開されましたクリスチャン・ヤンコフスキーの《キャスティング・ジーザス》をご紹介します。

キャスティング・ジーザス.jpg
クリスチャン・ヤンコフスキー《キャスティング・ジーザス》2011年
Performance in Santa Spirito, Rome
Photo: Luise Müller-Hofstede

よくテレビでアイドルをオーディションしてグランプリを選ぶといった番組を見たことがあるかと思います。本作において、ヤンコフスキーはこのオーディション番組の形式を使って、現代のキリストに最もふさわしい人間を選びます。イタリア人の役者たちがそれぞれキリストに扮し、十字架を背負ったり、聖書の言葉を語ったりします。そして、それを審査するのは、なんとキリスト教の総本山であるバチカン市国の3人の司祭なのです。彼らが役者たちにキリストらしい振る舞いや表情をさせて審査します。また劇中では、美術史家が登場し、キリストのイメージについて語ります。司祭と美術史家―まさにキリストのイメージを司る立場にいる人間を採用することによって、ヤンコフスキーはより痛快に信仰のシステムを暴きます。

ヤンコフスキーは本作品以外にも、通販番組の形式を使った《アートマーケットTV》(2008年)という作品を作っています。これは、ドイツ、ケルンで開かれたアートフェアの会場で、そこで出品されているジェフ・クーンズやヴァネッサ・ビークロフトといった名だたるアーティストの作品を生中継で実際に通信販売してしまうというものです。

このようにヤンコフスキーは、しばしば私たちにとって馴染みのあるテレビ番組の形式を使いますが、そこでは宗教(=《キャスティング・ジーザス》)やアート(=《アートマーケットTV》)に共通する、人が作り出した価値への信仰、その構造と虚構性を痛烈かつユーモアあふれる表現で私たちにつきつけます。

(本展担当学芸員 吉崎)

「ゼロ年代のベルリン展」映像作品について

9月23日から始まりました「ゼロ年代のベルリン」展も、いよいよ残すところあと4日となりました。まだ見ていない方はどうぞお見逃しなく。
本展は映像作品が多いため、時間には余裕をもってお越しになることをお勧めします。
ご参考までに、本展に出品している映像作品の上映時間をお知らせします。ご鑑賞時間の目安にして下さい。

1.ネヴィン・アラダグ
《心ゆくまで騒ごう》(2007年)9分
《ヴォイス・オーバー》(2006年)14分
《シティ・ランゲージⅢ》(2009年)42秒

2.フジ・リユナイテッド(サイモン・フジワラ&カン・フジワラ)
《再会のための予行練習》(2011年)14分23秒

3.ヨン・ボック
《バウフヘーレ・バウヘン》(2011年)45分55秒

4.フィル・コリンズ
《スタイルの意味》(2011年)4分50秒

5.オマー・ファスト
《キャスティング》(2007年)14分

6.ミン・ウォン
《明日、発ちます》(2010年)12分58秒

7.アンリ・サラ
《入り混じる行為》(2003年)8分19秒

8.マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ
《ネオンオレンジ色の牛》(2005年)6分30秒

9.クリスチャン・ヤンコフスキー
《キャスティング・ジーザス》(2011年)60分

10.ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ
《シーズ・ゴーン》(2009年)3分30秒
《ウソモホウベン》(2002年)1分45秒

2011年12月15日

「ゼロ年代のベルリン」作品紹介-2(フィル・コリンズ)

「ゼロ年代のベルリン」展の出品作品から、今回はフィル・コリンズの《スタイルの意味》についてお話します。

フィル・コリンズ(blog).jpg
フィル・コリンズ《スタイルの意味》2011 Courtesy: Shady Lane Productions and Akanga Films Asia

本作品は、マレーシアのスキンヘッド・グループを題材に彼らの生活を建築や美しい音楽(Gruff Rhysの「Y Badan Bach」)とともに描き出す映像作品です。マレーシアでスキンヘッドと聞いて、この組み合わせに違和感を抱いた方もいるかと思います。そこで、まずはスキンヘッド・サブカルチャーについて簡単にご説明します。

スキンヘッドは、1960年代後半のイギリスで生まれた若者のサブカルチャーです。短く刈り込んだ頭髪に、ベンシャーマンのボタンダウンシャツやフレッドペリーのポロシャツを着て、細いリーバイスのジーンズかスタプレのパンツをサスペンダーで吊り、足元はドクターマーチンのブーツ、といったファッションがこのグループの典型で、特に労働者階級に支持されました。このグループは先行するモッズから派生し、そのスタイルはジャマイカなど西インド諸島からの移民のスタイルが参照されました。スキンヘッドというと私たちはまずネオナチを思い浮かべ、移民排斥をうたう極右のイメージが強いかと思われますが、それは70年代末以降に再び復興した際に一部が極右化したものが広がっていったものであり、オリジナルはむしろ黒人文化の影響を多分に受けたものでした。これは、60年代における階級やジェンダーの意識の変化に対するリアクションで、中産階級の台頭やヒッピー運動による男性の女性化の流れに抵抗し、伝統的な労働者階級の文化を復興しようという動きでした。彼らは強いテリトリー意識や男らしさを強調しました。

このスタイルは70年代初頭に一度廃れますが、前述のとおり70年代末にパンク・ムーブメント(とくにストリート・パンクやオイ!)の中から再び現れます。しかし、このスキンヘッドの復興はオリジナルと比べると政治色が色濃くなり、右翼と左翼に分かれていきます。そして現在、スキンヘッドのスタイルは、外国人排斥を唱えるネオナチだけに見られるものではなく、反人種差別運動を行っているS.H.A.R.P(Skinhead Against Racial Prejudice)もまた採用しています。

このイギリスの労働者階級の若者たちから生まれたサブカルチャーで、現在複数の意味をもつスタイルが、時間と空間を超えて、現代のマレーシアにおいていかなる変容を経て受容されているのか。マレー系、中国系、インド系、そして先住民族で構成される多民族国家であるマレーシアの若者にとってスキンヘッドというスタイルはどんな意味をもっているのか、コリンズの作品は見る者に問いかけます。

なお、12月23日(金・祝)にはフィル・コリンズが来日して当館にてトークをします。
ご興味がおありの方はぜひお越しください。

(本展担当学芸員 吉崎)

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フィル・コリンズ アーティスト・トーク
日 時:12月23日(祝・金)16:00-17:30 *15:30開場予定
会 場:講堂(地下2階)
参加費:無料(ただし当日有効の本展チケットが必要です)
定 員:200名(先着順)
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【参考文献】
ディック・ヘブディジ『サブカルチャー―スタイルの意味するもの』、山口淑子訳、未来社、1986年
Timothy S. Brown, “Subcultures, Pop Music and Politics: Skinheads and “Nazi Rock” in England and Germany”, Journal of Society History, Vol. 38, No. 1 (Autumn, 2004), pp. 157-178

※参考までに映画『This is England』では、1980年代のイギリスにおけるスキンヘッド・グループの姿を描いています。移民の流入と失業率の増加に直面したイギリス、ロンドン郊外の街で若者たちが右傾化していく過程が見てとることができます。
『This is England』シェーン・メドウス監督、2006年

2011年12月 8日

「ゼロ年代のベルリン」作品紹介-1(オマー・ファスト)

早いもので「ゼロ年代のベルリン―わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)」展も残すところあと一ヵ月となりました。
何かと忙しい師走ですが、ぜひ皆様にもっと本展を知っていただきたいと思い、まだ展覧会を見ていない方に(そしてすでに見られた方にも)本展出品作品の紹介として、これから何回かにわたって作品の見どころや背景について少しお話していきます。


第1回
オマー・ファスト《キャスティング》
2007年、4チャンネル・デジタルフィルム

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オマー・ファスト《キャスティング》2007年 Photo: Nick Trikonis © OMER FAST


本作品は、イスラエル出身のオマー・ファストによる、二つのスクリーンの表裏にそれぞれ投影された計4つの画面からなる映像作品です。作家がアメリカ軍兵士にインタビューし、そこで兵士が語る二つのエピソードが元となっています。一つは、イラク派兵時に誤って民間人を撃ってしまった出来事、もう一つは、ドイツで自傷行為を繰り返す女性とクリスマスを過ごした話。この時間も場所も異なる二つのエピソードを、ファストはカットアップし、精緻につなぎ合せることにより、まるで一つの物語かのようにその再現映像が表面のスクリーンで展開します。一方、裏面では、インタビューの光景が映し出されます。
こうした編集によって恣意的に物語が紡がれることは、私たちが日々接しているマスメディアが発信する情報においてもしばしば指摘されていることです。ファストの本作品は、こうした情報や記憶の恣意性を私たちにあらためて気づかせてくれます。

(本展担当学芸員 吉崎)

次回は、フィル・コリンズの《スタイルの意味》についてお話します。


「ゼロ年代のベルリン―わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)」

開催中~1月9日(月・祝)まで
HP http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/128/

2011年11月24日

12/23 ゼロ年代のベルリン展アーティスト・トーク フィル・コリンズ

現在開催中の「ゼロ年代のベルリン-わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)」展では、関連プログラムとして、出品作家フィル・コリンズのアーティスト・トークを開催いたします。

フィル・コリンズ177.jpg フィル・コリンズ作品.jpg
写真左:フィル・コリンズ
写真右:《スタイルの意味》2011 Courtesy: Shady Lane Productions and Akanga Films Asia

フィル・コリンズ アーティスト・トーク
日 時:12月23日(祝・金)16:00-17:30 *15:30開場予定
会 場:講堂(地下2階)
参加費:無料(ただし当日有効の本展チケットが必要です)
定 員:200名(先着順)

通訳(英→日)あり

皆様のご参加をお待ちしております。

2011年11月15日

「ゼロ年代のベルリン」展覧会カタログ入荷

現在開催中の企画展「ゼロ年代のベルリン―わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)」の展覧会カタログが完成しました。

カタログ表紙.jpg


カタログのアートディレクション&デザインは中島英樹氏、価格は2,500円(税込)です。

館内のミュージアム・ショップにて販売しておりますので、ご来館の際はショップにもぜひお立ち寄りください。

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