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オスカー・ニーマイヤー展 SANAA西沢立衛氏による作品解説②パンプーリャ・コンプレックス

②パンプーリャ・コンプレックス
※以下N:西沢立衛氏、H:長谷川祐子(当館チーフキュレーター)

H:それでは2番目のお部屋に移動します。最初は初期の作品、パンプーリャ・コンプレックス、それとカノアスの邸宅。いずれも40年代の作品ですね。パンプーリャの模型を囲むように見て頂けますか?
これはリオから北に400キロ行ったところにあるベロオリゾンチ盆地にある場所なのですが、クビチェックが市長になったときに、ニーマイヤーに依頼をしてその湖の周りに複数の公共施設をつくりました。ダンスクラブとか、ヨットクラブとか、教会、カジノ、そういうものが湖の周辺につくられています。
ここには彼の新しい試みが見られます。とくにこの教会は、ボールを重ねて中心に収束していくような、不思議で斬新な形になっています。
先ほど西沢さんもおっしゃったように、ニーマイヤーはさまざまなビジュアルアーティストとのコラボレーションをしていて、このファサードは有名なブラジルの作家のカンディド・ポルチナーリという作家の作品です。もうひとつ、パウロ・ヴェルネックさんという抽象的な壁画画家の作品が両側にあります。ニーマイヤーとは共産党員としても親しくしていたのですが、彼はそれまで忘れられていたタイルを用いて、巧みに建築の表面に使っていくという手法を試みています。このヴェルネックさんの作品は最後の部屋でもご覧頂けます。
それでは西沢さん、この教会についてお話しして頂いてもいいですか?

②ニーマイヤー.jpg
サン・フランシスコ・デ・アシス教会模型(縮尺1/50)
"オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男"展示風景, 2015
撮影:江森康之

N:まずこれはサン・フランシスコ・デ・アシス教会です。3次元的な造形の建築です。これは可展開曲面といって、ダブルカーブではなくシングルカーブで出来ているんです。平面を曲げて作れる曲面ですので、形としてはたいへん激しいものですが、しかし実は作りやすい。当時はコンピューターも3D技術もなかった時代で、その技術的条件のなかで、技術の限界を感じさせない自由な3次元的なものをつくっているのも特筆すべきことだと思います。これは42年の作品ですから、コルビュジエのロンシャン礼拝堂が1955年ということを考えると、ニーマイヤーの早さというのは驚くべきことです。

もうひとつ僕がすごいと思うのは、ニーマイヤーは最初の作品でもう完成されているということです。最初に萌芽があってどんどん成長していくというのではなくて、最初から完成されているのです。初期から晩年まで一貫して同じ問題に向かっていている。これもある意味で天才的なことだと思います。

これはダンスホールとスウィミングプールです。このダンスホールはパンプーリャのなかでもベストワークの一つだと思います。いろんな点ですごいですが、やはりひとつは、敷地のなかで、敷地に合わせて建築を作るのではなくて、むしろ逆に、建築に合わせて敷地をつくっている、建築と敷地を同時につくっていることです。湖に飛び出た人工土地ですからそういうことが可能なわけですが、すごいことだと思います。僕らのようにふだん日本で建築をつくっていると、どうしても敷地が与えられて、そのなかで色々やるという感じになってしまうのですが、この人はそういうことではなく、敷地境界線を感じられないような建築をつくります。このプールもそういういわば「敷地境界線を越えていく」というスケールの大きさがあります。大きな屋根がプールにかかっていて、水面とプールサイドの両方に屋根がかかっているのです。なので泳いでいくと徐々に建築のなかに入っていく。大したことないように聞こえるかもしれませんが、泳いでみるとすごい。歩いて建築に入るのでなくて、泳いで建築のなかに入っていくわけですから、なかなかすごいのです。建築が陸からはみ出してしまう、建築が敷地を越え出るという感覚があるのです。彼の建築には基本的にそういう、敷地というか、諸制度を越えていくというスケールの大きさがありますが、それは若い頃からそうだったということが、はっきりとパンプーリャに行くとみんなが感じます。

ニーマイヤーの建築は色気というか、官能的なところがあって、それも素晴らしい点です。ひとつはタイルというのがあります。モダニズムというのは乾式工法に向かっていくものなので、どんどん工業的な、非人間的な建築になっていくというモダニズムの流れがあるのですが、ところがニーマイヤーはタイルが好きで、どのプロジェクトでも湿式工法のタイルを使っています。それが彼の建築に独特の色気とニュアンス、地域的な美しさというものを与えているひとつの要因になっていると思います。

H:西沢さんのおっしゃったことに付け加えますと、私がパンプーリャに参りましたときに一番驚いたのは、サン・フランシスコ・デ・アシス教会の下に黒い波が波打っている模様のタイルがあるのですが、それが中と外で全て連続しているんです。そのダイナミズムと、いきなり外が全面ガラスになっているということも含めて、中と外のダイアログ、しかも人の美学をもったダイアログに非常に大胆な意匠を感じました。

またダンスホールですが、キャノピーやこちらのバーと、ホールとがつながっています。色々な写真でも撮られているのですけど、あれは本当にフリーハンドで、この湖の線に合わせて出島がつくってあり大胆で素晴らしい。フリーハンドにこんな魅力があるのか、と最初にみなさんに知らしめた代表作のひとつかなと思います。

西沢さん、あとは構造の話をして頂いてもよろしいですか?屋根のこの波打っている感じについてなど。

③ニーマイヤー.jpg
パンプーリャ・ヨットクラブ模型(縮尺1/50)
"オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男"展示風景, 2015
撮影:江森康之

N:先ほど長谷川さんが、ニーマイヤーはモダニズムの中心、世界の先進国から出て来たのではなく、ラテンアメリカという辺境から出てきたとおっしゃいましたが、モダニズムという運動は、そういう側面があるのです。すごい人はだいたい辺境から出てきました。例えば、コルビュジエもスイスから来たということでパリではずいぶんいじめられたようですし、ある意味で後進国であるイタリアからはジュゼッペ・テラーニが出てきて、フィンランドからアルヴァ・アールト、アメリカからはサーリネン、日本では丹下健三が出てきて、ブラジルからはオスカー・ニーマイヤーが出て、みんな自分の地域から、自分の地域の文化を背負って出て来ました。そういう過程でもってモダニズムは世界的な建築運動となったのです。違う歴史を持つ各地域の人々が、はじめて同じ問題に向かったという、世界史の時代です。そういう意味で、他のモダニズム建築家と同じくニーマイヤーも、グローバリズムと地域性という問題を背負って、また世界史という課題を背負って、それに応えて来ました。そういう意味でも彼は正統的な意味でモダニズム建築家です。構造的にも、いろいろチャレンジングな、野心的な試みをしていますが、それが構造表現というよりは、どこかでブラジル的な、かつニーマイヤー的な表現になっているというのも、おもしろいと思います。構造力学つまり近代科学が形を決定しているわけですが、でも構造表現主義とは言い切れない、彼らしいカーブと形が出る。ユニバーサリズムだけではない不思議な、個人的な情熱というような表現があって、またブラジル的地域性が感じられて、そういう世界性と地域性の同居も素晴らしいと思います。

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